サイドキック
「――――なにすんだ」
よ、と。後続させるつもりだった声音は放たれることはなくて。
………否、できなかったんだ。口にすることが。
見上げた先にいる親父。その眉間に限界まで刻み込まれた、シワ。
分かっちまったから。本気で、親父は本気で俺に対して怒りを抱いている。
「宏也お前、自分が何してるか分かってんのか?」
「…………わかってる」
「分かってないだろ」
間髪を容れずに被せられた台詞が遠慮なんて知らずに俺を追ってくる。どこまでも。
本当は分かっていた。親父が怒っている理由も、今し方殴りつけてきた所以も。
「――――お前自身の人生、棒に振るところだったんだぞ」
それら全てを痛感した上で抗った理由は、一つしかない。
だって、親父。こいつ兄貴を殺した犯人かもしれないんだぞ?そんなヤツ生かしておいていいのかよ。
親父だってお袋だって、泣いてたじゃねぇか。
兄貴が死んじまったあの日、人目を忍んで涙流してたじゃねぇか。
殺してやりたいほど憎んでるのは、親父だって同じなんじゃねぇのかよ。