サイドキック
ばくばくと厭な音を立てて鼓動する心臓。
努めて動揺を見せないように唇を引き結びながら、逸る気持ちを抑え込んで慎重に言葉を選んでいく。
気を引き締めなければ、言ってはいけないことを口にしてしまいそうだったから。
「――――親父はそれが誰か、知ってるのか」
しっかりしろ、俺。負の感情に呑みこまれてしまったら駄目だ。
でも、聞きたくて仕方なかった。
なんでその情報を今になって俺に言うんだ。どうしてずっと、隠してた。
それを公の場できちんと伝えていれさえすれば、警察の手を借りてでも犯人を捜す術があったんじゃないのか。
それなのに、それにも関わらずなんで、どうして。
ぐるぐると脳内を巡る疑問は更なる疑念を呼び起こし、最終的にはずっと信頼していた筈の親父に対しても疑いの眼差しを向けてしまいそうになる。
わかってる。別に犯行に関与していたんじゃないかって言いたい訳じゃない。
親父が兄貴の死をずっとずっと悲嘆してきたことくらい、近くにいた俺が一番よく知っている。
―――――でも、それでも。
「なんでソレを俺に言わなかったんだよ。隠すことにしちゃ、大分タチ悪いんじゃねぇの?」
その"隠す"という行為自体が、俺に親父に対する懐疑的な感情を抱かせる。