サイドキック





慌ててソファーに沈めていた腰を浮上させる。

緩みきっていた表情を限界まで引き締め、みずからの服装に綻びがないかどうか瞬時に確認した。

待たせてはいけない相手。しかしながら、気を抜いたままだと俺が呑まれる。

一度自分自身に思い切りカツを入れてから、『はい』ととおる声で返答をした。




――――ギィ、



扉が開く僅かな時間が、永遠とも思えるほどスローに網膜へと流れ込んでくる。

相手が誰かなんて愚問にもほどがある。まさか相手から出向いてくるとは思わなかったものの、こういうケースを想像しなかった訳じゃない。



段々と姿を現してくる体つきの好い男。

言うまでもなく有名ブランドのスーツを身に纏ったその人は、微かに見覚えのある顔立ちでついに部屋の中へと足を踏み入れた。

それに伴って爆音を刻んでいく心臓は、俺自身のものに他ならない。

ピシッと相手に好感を抱かせられるように腰を屈め、頭を下げる。こういう場面は幾度となく経験してきたものの、今までのどれもが比ではないくらい。









『――――顔を上げてくれ』










結城社長―――アイツの父親に対面するのは、極限まで俺自身の緊張を高めた。








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