サイドキック






―――――――――――…




時間でいったら、どれくらい経過したのだろうか。この人がこの空間に姿を現してから、恐ろしいほど時間の流れが遅く感じた。

できれば、そっちから話を振ってくれたら有難かったのだがそうもいかないらしい。

向かい合うようにソファーに腰を下ろした社長は、なにか言葉を発する訳でもなくただジっと俺を見据えるに留まる。

仕方なしに俺は覚悟を決め、薄く口を開いた。




『――――社長』






喉の奥がカラカラに乾いてしまっている。そんな俺を知ってか知らずか、その人は瞳を軽く動かすのみで返答すらもしない。

しかしながらその行為が発言の先を促しているように見えて、きゅっと唇を引き結んだ俺は続きを音にすることに。








『単刀直入に僕自身のお願いを申し上げます』



わかってる。初対面のお偉いサンに向かって、それでなくともライバル社にあたる会社の社長に向かって無礼だってことは。

でも無理だ。ユウキを他の男に渡しちまうくらいなら、









『―――――娘さんを、僕に下さい』








俺は"俺"であることを放棄することなんて厭わねぇ。

一字一句さえ抜け落ちてしまわないように、ハッキリと音にしたのと同時に直ぐ立ち上がり頭を下げる。



痛いくらいの沈黙が、この空間を丸ごと呑みこんでいくのが手に取るように分かった。






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