サイドキック
* * *
『娘さんを、僕に下さい』
そう言葉として宙に放ってから、どれほどの時間が経過したのだろうか。
最早それすらも分からないほど、俺は社長に頭を下げ続けていた。
もしかして、土下座でもするべきだったのか。マズい、それなら最初からそうするべきだったのかもしれない。
そんなことを延々と脳裏で思い巡らせていると。
『―――――顔を、上げてくれ』
ようやくその一言を貰うことができて、酷く安堵したのは抗いようもない本音。
一度目を瞑ってばれない程度に息を吐き出してから、再度表情を引き締めて眼前で腰を下ろす社長へと視線をおとした。
『悪いね。ちょっと考え込んでしまって』
『………いえ』
『君はもしかして、』
ふと視線を上げた社長は、なにを考えているのだろう。
『香弥が家を空けていたときに、一緒に居てくれた子なのかな?』
その質問の意味。なにを答えたら適切なのか。
全く分からない。分からないけれど、この人に嘘を吐いたところで無意味であろうことは早々に窺い知れた。
あの頃アイツと過ごした日々が、走馬灯のように俺の脳内を埋め尽くす。
薄々わかってた。この人の存在を知ってから、
『――――……はい』
彼女があの世界に身を投じてしまった要因が、社長自身なんじゃないかってことは。