サイドキック
『そうか』
俺が肯定の意を声として示してから、考え込むようにそう呟いた男は宙へと視線を上らせる。
その視線は明らかに俺の頭上を飛び越えていて。
易々と相手に心情を読ませないあたり、この人はやはり一筋縄ではいかないと。
そう、痛感した。
『香弥を欲しい、ということは』
社長が言う。
『君はあの子に惚れている、ということか』
疑問、というよりは独白に近いものを感じた。
しかしながら返答をするべきだと考えを至らせた俺は、
『はい。本気です』
別に要された答えじゃないことは知っていた。
けれど、少しでもチャンスがあるならその度に言葉にできるくらいには。
相手が誰であろうと気持ちを言葉として示せるくらいには、厭わないくらいには。
彼女が欲しくてたまらない自分がいたことは抗いようもない事実で。
『――――小宮山くん』
もしかすると望まれた返答、というものは何ひとつとして返すことが出来なかったのかもしれない。
問い掛けをおとした社長に視線を戻す。
真剣さのみを練り込ませたその瞳は、青二才の俺に譲歩することは一切ない。