サイドキック
「違う……っ、そんなハズじゃなかった!!」
「殺すつもりはなかった?じゃあ何故逃げた」
「………それは……、」
思い切り視線を泳がせる藤堂は、最早正常とは言い難い状態で。
今にも発狂してビルから身投げでもしてしまいそうだと。
そう、思えるくらいには普通の人間の表情から遠ざかっていて。
このとき俺は確かに、思っていた筈なんだ。
"なにをしても可笑しくない"
藤堂を見ていると、そんな感情を覚えてしまうと。そう、確かに分かっていた筈なのに―――
「ッ、くそ……!」
目にも留まらぬ速さで走りだしたその男を、目を見開いて視線で追うことしかできなかった。
そんな状態の藤堂が向かう人物なんて、一人しか居ないと。
――――分かっていた筈なのに、
「お前だけは殺してやる!!!」
もう間に合わない。そう、悟ってしまった。