サイドキック
* * *
現状を把握するまでに、ワンテンポの遅れが生じた。
初めて耳にする話ばかりで、その内容に追い付くのがやっとの私はヒロヤに「ユウキ!」と叫ばれてようやくその事態に気付く有様で。
「――――お前だけは殺してやる!!!」
そう声を張り上げながら向かってくる男に反応するのが遅れた所為で、元々立ち上がれなくなっていた私はどうすることも出来ない。
その手にはバタフライナイフが握られていた。
視界すべてがスローモーションのように移りゆく。
それの矛先が私に向かっていると分かるのに、どうすることもできない。
「―――………ッ、」
正直、もう駄目だと。
固く瞼を閉じてそのときを想定して身構えた―――、
その、瞬間だった。
―――――ドンッ
鈍い衝撃が身体を走り抜ける。
なにかに包まれているらしく、体温らしきものが私の身体へと伝ってくる。
恐る恐る瞳を開けていく。
予想していた筈の痛みに部類されるものはまだ、訪れてはいない。
よく考えてみれば、それがどうしてなのか。
分かる筈だと思うけれど。
「な……、―――アンタッ……!」
目の前で穏やかに微笑んできつく私を抱きしめるのが父だと認識した瞬間、考えなんて全て吹き飛んでしまった。