サイドキック
「………いいから、もうっ……いい、から」
止め処なく頬を濡らす涙が邪魔だ。
思うように動けない自らの身体が恨めしい。
私がいつも通り動けてさえいれば、こんな事態にならずに済んだのに。
覚束ない手付きで父の腹部の止血に徹していれば、既に開け放たれていた入口から次々に警官が突入してくるのを認めた。
担架を担いだ人たちがあっという間にここまで辿りつき、負傷した父を救急車に運びこむ。
もう一つの担架に乗せられた私は、にっこりとほほ笑んでスマホ片手に手を振るヒロヤの親父さんの姿を目にした。
それを見て、連絡をまわしてくれたのは親父さんなんだろうと。
一抹の安堵を覚えてしまえば、あとは自然とおちてくる瞼に抗う必要もなくて。
「――――俺も、乗せてください」
最後に感じた手の温もりが、ヒロヤのものだと気付く前に意識を手放したのだった。