サイドキック
心底まいった、と言わんばかりの表情で髪を掻き上げたヒロヤ。
そのまま細く溜め息を吐き出す。そんな男の姿を、ベッドの上で呆然と見つめていた。
私が横になっている所為で、突っ伏していた上体を持ち上げたヒロヤを見上げる形になる。
ここ最近、本当に色々なことがあったから。
大袈裟かもしれないけれど。もしかしてもう二度と、こんなふうに言葉を交わせないんじゃないかって。
そんなことさえ、思っていたから。
「…………ごめん、迷惑かけて。ヒロヤだって大変なのにな」
「っ、」
「嬉しかった……助けに来てくれて、ありがとう」
少し前までは。
ほんと、さっきまでは渋っていた筈のこの台詞も、もう会えなかったかもしれないって思ったら。
もしかしたら死んじゃってたかもしれないって思ったら、厭ってる自分が余りに小さく感じてしまったから。
でも、やはり恥ずかしさは拭えなくて。
その言葉を吐き出した直後のこの、紅潮してしまった頬を見られたくなくて、思い切り顔を背けた私は何食わぬ調子を繕いながら続きを口にする。
「―――……そ、そう言えばさ」
「……なんだよ」
「あいつどうなったんだよ、あの、ニセモノ男」
背後に佇むヒロヤが、私に負けないくらい頬に赤を迸らせて同じく顔を逸らしていたなんて、知る由もなく。