サイドキック
だから終わりにしたかった。たったそれだけのこと、なのに。
「――――言いたいことはそれだけか?」
強制的に掴まれた腕の感覚に気付くのが、ワンテンポ遅れてしまって。
段々と映り込んでくる男の柔い黒髪、切れ長の瞳、整った鼻筋―――
「待っ、」
「待たねぇ」
全てを視界で捉えきる前に、懐かしいほど愛おしいそのムスクに包まれて。
唇に熱が、おとされた。
どうしよう。拒みたいのに、拒まなきゃきっと私は後悔するに決まってるのに。
ベッドに押し付けるように被さった身体が全部好きで、好きで仕方なくて。
最後までまわさないようにしていた腕は、手元のシーツをシワになるほどキツく掴んでいたけれど。
「いいから」
口調の割に優しく解かれた指先に導かれて、気付いたときにはその背中にまわしてしまっていた。
できることなら、ヒロヤを好きになる前の自分に戻りたい。
ううん、それじゃ駄目かもしれない。せめて再会する前まで戻らなきゃ、きっと私はまたこの男を好きになってしまう。
「――――……、………ッ」
気持ちを言葉にできない代わりに、まるでそれを代弁するように。
温かい涙が、ただ静かに頬を伝っていった。