サイドキック
* * *
時刻は午後9時を丁度まわった頃。
琥珀色に染められていた筈の空は既に全てが宵に呑まれており、そんな中都内のバーに姿を現した男は何かを探すように視線を彷徨わせる。
暫くしない内に待ち合わせていた相手を見付けたらしい男は、丁度こちらに気付き手を振った男に軽く腕を上げて応酬するとそのまま歩を進めた。
「―――悪いな昭人、待たせた」
「いや。俺もちょうど来たところだから」
「調子はどうだ?」
「まあまあ、かな」
まだ傷の残る腹部に躊躇いがちに視線をおとした男―――小宮山佳宏その人は、そのまま辿るように目線を上げてそう口にする。
遠慮がちに背後に佇む店員に気付いた佳宏は「悪いな」と薄く微笑むと、手に持っていたコートを潔く相手に手渡し預けた。
「マスター。彼と同じものを」
横目で捉えたグラスに入ったそれを指しながらそうカウンターの奥へと声を向けると、ふうと一息吐いて高い位置にある椅子へと腰掛ける。
「………お前には合わないんじゃないか?コレ」
「馬鹿言うなよ。これからは同じ穴の狢、だろ?」
悪戯に微笑んでみせた男を見て数回目を瞬かせた結城昭人は、「そうか」と零すなりどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。