サイドキック
不意に鼓膜を揺らした男の声音にチッと舌打ちを零し、素顔を見られない内に素早くパーカーのフードを被って闇に溶け込んだ。
「――なぁ、最近ここらで騒がれてるヤツって」
「…………、」
「アンタなんだろ?」
血の匂いだけが埋め尽すこの場所で、動じる訳でもないらしい背後の男は着実に此方との距離を詰めてくる。
耳に入る声のボリュームが増しているのがその証拠。
「……、…俺とも相手してよ」
―――ブンッ!
一瞬だった。
背後から前触れ無く振り下ろされた踵。
僅かな空気の揺れと息遣いで何かを仕掛けてくると踏んだ私は即座に後ろへと向き直り、両手をクロスして相手の脚をそのまま食い止めた。
ただ計算外だったのが、
「―――――ふーん……、オンナノコねぇ」
完全にガードした筈の相手の男の手によって、深く被っていたフードがパサリと外れてしまったこと。