サイドキック
「―――なあ、佳宏」
伏し目がちにそう口にした昭人は、視線を向けることなくポツリと声音を向けていて。
そんな男を隣で認めた佳宏は「なんだ?」と何食わぬ調子で言葉を返す。
相も変わらずな男を尻目に捉えた昭人は、意図せず張っていた肩肘を緩めると相好を崩して、そして。
「お前、宏也くんに婚約相手の写真見せてないんじゃないか」
「あらら。ばれてた?」
「そう思うだろ、普通。あんな風に頭下げられたら」
「へー…、頭下げたんだアイツ。それ、初耳」
悪戯混じりの笑みでそう言葉をおとした佳宏はやはり、好い年をした大人にしては聊か不釣り合いなほど口角を上げている。
しかしながらそんな男を昔から知っている昭人は「わざとらし」と一蹴するのみで。
どこか学生時代を彷彿とさせるやり取りに心が和ぐのを感じていれば、ふとおとされた確信混じりの台詞が昭人の耳朶をゆるりと撫ぜた。
「それ言ったらお前だって同じだろ。香弥ちゃん、かわいそー」
昭人は思う。やはりこいつからは未だに、あの頃にも通じる餓鬼っぽい仕草が抜けていない。
まるで誇張するようにそう言ってみせた佳宏を横目で捉えた昭人は、半ば呆れながら薄く微笑むと。
「―――……ちゃんと渡してたんだけどな。なんか、本人が見てないらしい」
今ではハッキリと脳裏に浮上させられる娘を思いながらポツリ、そう呟きをおとした。