サイドキック
私がシートに身体を沈めるまでの間、もどかしさ全開で視線を寄越す昴くんには気付いていたけれど。そこは勿論、シカトに尽きる。
「なんでヒロヤさんから逃げるんですか。苦手な訳じゃ、ないでしょ」
言葉を紡ぎながらシートベルトを引っ張った私は、「じゃ」あたりで力みながら全てを声音に変える。
せっかちな昴くんはもう我慢ならなかったらしい。どうしてって?私が知るわけないですよね。
忍者さながらのスピードで私の手からベルトを奪った彼は、いそいそとそれを引き伸ばし座席付近のバックルにカチリとはめ込んでしまった。
「そりゃ、苦手とかじゃねーけど」
そう言いながらナビを起動させた昴くん。黙ってればカッコいいのになあ、ホント惜しい。
思い掛けず残念なものでも見るような目付きで視線を送ってしまった私に逸早く気付いたらしい彼は、
「………稜ちゃん……?」
怪訝さばかりを詰め込んだ瞳を交えて私の名を呟いたけれど、これには適当にしらばっくれておく。
あ、大丈夫ですよ。いつものことですから。
――――と、
『……、―――……と合併こそしますが、それはあくまで提携上の形だと御理解願えると幸いです』
不意に鼓膜を叩いた声音に暫し、目を瞬く。
おっと……おっとォ?
ゆるゆると辿るように横に居る昴くんを視界に捉えてみると、彼も驚きを隠せないらしく目を見開きフリーズしている様で。