サイドキック
起動させたナビは、奇しくも丁度テレビのところにダイヤルが合わせてあったみたいで。
今し方話していた内容の当事者にあるその人が、沢山の記者に囲まれてフラッシュを浴びている。
「………苦手じゃなくて?」
「え、今それ聞くとか」
「苦手じゃなくて嫌い、ですか」
「嫌いじゃねーよ。男同士って、そこらへん面倒じゃねーから」
眉根を寄せつつ返答を寄越す昴くんは、時折私のほうへと視線を伸ばすもののやはりテレビのそれが気になるらしく口を尖らせるにとどまる。
『僕、小宮山宏也は―――』
しん、と。画面の中の会場がこれ以上ないくらいの静寂に呑まれたことを悟った。
ふと思う。病室で寂しげな表情を浮かべていた彼女は、今この番組を見ているのだろうか。
見ているとしたら、
『結城興業社長の娘である結城香弥さんと、今日を以て婚約します』
こんな突然すぎるサプライズを受けて、どんなふうに嬉しさを噛み締めたのだろうと。
稜
と
昴
な
り
の
祝
福
「………すごいですね、ヒロヤさん」
呆然と画面を凝視していた私の呟きが、すっかり静けさを纏った車内に溶け込んでいく。
どうしてユウキさんに付き添っていないのかと思えば、そんなことをしていたとは。
きっと彼女だってこの会見のことを知らなかったのだと思う。
あの寂しさを滲ませた表情は、隠しきれなかった結果な筈だから。
「稜」
「はい?」
「俺がヒロヤを警戒してたのは、あいつが居るとお前が」
真剣さを孕んだ瞳に、射抜かれる。
私は昴くんが時折見せるこの表情が酷く、苦手だ。
――――何故かって、
「俺に構ってくんねーだろ?」
この状態の彼には、一生懸かっても勝てる気がしないから。