サイドキック
このとき私は、見上げた先に居る父がどんな表情で私を見下ろしているのかなんて到底わからなかった。
だから視界がそこまで及んだとき、驚いたんだ。それはもう、息を呑みこんでしまうほど。
「あとでお母さんから、婚約相手の写真を見せてもらうといい」
「………え?なんで――」
「きっと驚く。笑うかもしれない」
――――だってそこに佇む父その人が、酷く穏やかに瞳を細めていたから。
その言葉の意味こそ分からなかったものの、その雰囲気からは少しも婚約への反対のようなそれを感じることはなかったから。
呆然とベッドの上で座り込む私の頭を最後にひとつ、撫でたその人は。
穏やかな空気を一切ゆるめることは無く、呆気ないほど静かに病室から姿を消してしまったんだ。
「…………っ、」
頭を撫でてもらったのなんて、小学生のとき以来かもしれない。
嬉しさの募る感情は抗いようもなくて、最初は呆然と扉ばかりを見つめていた私の頬はゆるゆると上がってきてしまう。
そんな自らの緩みを引き締めることに没頭するあまり、再度扉が開いたことに気付くのが少し遅れてしまった。
「よ、ユウキ。なーにニヤけてんだよ、キモ」
「………よお、くそ野郎」
「はあー?」