サイドキック
私から真顔混じりの反撃を受け取ったその男は、ケラケラと屈託のない笑みを浮かべながら長い脚を繰り出してくる。
僅かな距離はそれで、あっという間に詰められてしまう。
眼前でピタリと足をとめた男をゆるりと見上げた。そんな私の視線を受けて殊更、にやにやと締まりのない笑みを増幅させるそいつ。
「きもい」
「いやー?さっき思い出し笑いしてた結城香弥ちゃんには負けるわ、さすがに」
「寄るな」
「却下」
「ヘンタイ」
「それ、褒め言葉だから」
ずいっ、と躊躇うことなく顔を近付けたそいつを至近距離で睨め上げる。
相変わらず慣れないキョリ。ばくばくと早鐘を打ち始める心臓。
「タコみてぇ」
強がりながらも、頬の紅潮ばかりは阻止できない私を変わらない笑みで揶揄する男、小宮山宏也。
帰り際に買ってきてくれたらしい花束を陳腐なデスクに乗せたそいつは、自由になった腕をそのまま私へと伸ばす。
それをジっと見つめていれば、むかつくほど細く長い指先がこちらの顎先を自然に持ち上げていて。
「さて。ナニから始める?」
「遠慮します、病人なんで」