サイドキック
見なかったことにしよう。そう結論付け、個室である病室の片付けに再度腰を据えようとしたのは良いけれど。
「チッ」
「香弥ちゃん!」
「あ、ご、ごめんなさい」
再度ポケットの中で振動を繰り返す端末相手に、盛大なる舌打ちをかましてしまった。
後頭部に手を添えながら謝罪をこぼす私を呆れた眼差しで見つめる看護師さんに苦笑で応酬し、視線を再度そのアプリ画面へ。
【今から行く。あ、今日から俺ら同棲だから】
既読13:20【は?】
【今日から俺ら同棲だから】
【同棲だから】
【同棲】
何回も送らなくても分かるっての!
久々にマスカラの乗せた睫毛を何度も上下させ、どう返信しようか思案を巡らせる。
そんな中でも若干の俺様主義を誇る奴は、既読マークを付けた癖に私が返信しないことが癪に障ったらしく。
【犯すぞ】13:22
物騒極りなく、ついでに言うと私の眼球が飛び出してしまいそうな言葉を送りつけてきたのだ。
なにコイツほんと……!今すぐ婚約取り消したいんですけど!!