サイドキック
「…………、ごめん」
何だか物凄く悪いことをしてしまったような。
罪悪感に駆られてポツリとそう零せば、思い掛けない言葉が鼓膜を揺らすものだから驚いた。
「別にいいよ。つか、たぶん謝らなきゃなんねぇの俺のほうだし」
「は?」
「あー………、殴らねぇ?」
ちらりと視線を寄越した男を見上げるようにして、視線を持ち上げる。
そんな私を黒髪の間から覗く切れ長な瞳で一瞥した奴は、あろうことか「やべ。ムラムラしてきた」と口にする始末で。
「(今の時点でもう、殴りたいけど)」
でも、そんなことを言ったらコイツは絶対に教えてくれないだろう。
確信にも似たなにかを感じた私は無言で先を促すに留まる。そんな私をミラー越しにおずおずと見詰めたヒロヤは、一言。
「…………倉庫にお前が忘れてったときに、勝手に貰った」
「………」
「………」
「………、何だって?」
「モトはてめぇのモンなんだわ、コレ」
「……つまりは、盗ったと」
「早い話がそ―――」
「降りる」
「婚約破棄だバカ男!!」
シルバーピアスの裏事情
( 仲直りさせますので御心配なく )