サイドキック





* * *




暫くの間、当てもなくほっつき歩いていた。

そんな私の恰好は黒のパンツに加えて黒のパーカー。髪だって黒なのだから、全身が黒に覆われていて成る程奇怪だと感じた。

"黒"を身に纏うのは"女"である自分をひた隠すため。


倉庫にあった適当なビニール傘が空から降ってくる滴たちを弾き、アスファルトに落としていく。





住宅街のT字路に差し掛かる。

なんとなくそのまま真直ぐ進もうと思っていた私は、ちらりと視線を脇道に逸らしてから。


―――……その瞬間に目に入った光景に無意識の内に足を止めてしまっていた。





「にゃあ~」

「………」

「にゃあ~」




ダンボールに身を沈める一匹の子猫。真白で小さな身体は、雨に打たれたせいで小刻みに震えていて。

一本の狭い通りを挿んで立ち尽くす私を一心に見つめ、「にゃあ」と頻りに鳴いている。









気付けばその場所に向かって、足を踏み出してしまっていて。

あっという間に詰められた距離。今し方自らを覆っていたビニール傘をダンボールに向かって翳し、中で尚も身を震わせる白い子猫をジっと見つめた。


流れる水滴がピタリと止まったことで、不思議そうに円らな瞳を向ける子猫。

それに反して一気にずぶ濡れになった私は、取り敢えずこの状況をどう打破しようものか思案に暮れていた訳で。




「…………、一緒に来るか?」

「にゃあ~」







言葉が通じないことなんて百も承知だけれど。

此方を見上げてそう鳴いてみせた子猫を、自分自身このまま放置できる性格では無いことは確かで。


ダンボールに双手を沈ませ、最早プールと化しているそこから子猫を抱き上げた。




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