サイドキック
* * *
「―――そッ、総長!!どうしたんすか!!!」
「何でもない」
「ずぶ濡れで……って!ネコ……?」
「ヒロヤ居るか?」
「た、たぶん上に……」
その言葉に薄らと頷いてみせ、先刻まで身を置いていた二階に向かおうと階段に脚を掛ける。
けれど、慌ててタオルを手に戻ってきた他の奴らがその行く手を阻んだ。
「いい別に。ほっときゃ乾く」
「ん、んなこと言ったって!風邪引いちまいますよォ!」
「いいって言ってんだろうが」
「ひいっ……!す、すんませ――」
「オイオイ、デリケートな連中の好意も受け取れねぇのかテメェは?マジで頭でっかちだな」
カンカン、と鉄製の階段が鳴く。それと同時に顔を上げれば、苦笑と言うよりはニヤニヤと破顔しているヒロヤの姿が。
このやり取りが騒がしくて下りてきたのだろうか。……いや、違うな。どうせあの重圧な扉に阻まれて外部の音なんて余り聞こえない筈だし、偶然ヤツが出てくるタイミングと被っただけか。
「………悪かった」
「え?」
「借りる。タオル寄越せ」
「は、はい!!!返さなくていいっす!!!そ、総長お大事に!!!」
「………」
「寄越せじゃなくて"ありがとう"だろ?どんだけツンデレな――」
「うっせぇカス」
「ッでぇええぇ……!」
借りたタオルを隻手で掴み頭をガシガシ拭いていれば、又もや此方を揶揄し始めたヒロヤ目掛けてローキック。
ニヤニヤと気味の悪い笑みばかりを浮かべていたその顔が苦痛に歪んだのを認めて、無意識の内に失笑がこぼれ落ちた。ざまあ。