サイドキック





そんな風に日頃と何ら変わりのない行動を取っていた私だったけれど、もう片方の腕に抱える生き物が「にゃあ」と鳴いたことで意識をぐんと引き戻された。

それを機に脛をさすっていたヒロヤも数回の瞬きをおとした。そして怪訝な眼差しでそいつを見下ろしていれば、案の定。



「はァ!?てめぇコラ、ユウキ!なに猫なんて拾ってきてやがんだ!此処は動物保護センターじゃねぇんだぞ!?」

「……知ってる。雨に打たれて死にそうだったから一時的に預かるだけだ」

「預かるって……ドコでだよ?」

「此処で」

「あ?」

「ココで預かる。総長命令だ」

「てめぇ……そんなんで、」

「にゃあ~」

「………はぁ」






最初は目くじらを立てて頭ごなしに怒鳴り散らしていたヒロヤだったけれど、私の様子を視界に入れて、加えて便乗するように子猫が鳴き声を上げたことで肩の力が抜けたらしく。

深い溜め息をおとすのと同時に、自らの眉間に指先を宛がって黙すること数秒。


その間にも、だんだん身体が温まってきたらしく震えのおさまった子猫の顎下を指先であやしていた私。そんなツーショットを見て更に脱力したらしい、ブリーチ髪の男はと言うと。



「わぁった。わかったから、まず全員に猫アレルギー持ってるやついねぇかどうか聞け」

「いいのか?」

「総長命令ならしょうがねぇだろうが」






一気に老け込んだように見えるヒロヤはそのまま覚束ない足取りで階段に向かうと、何やら言い残したらしくもう一度振り返ってくる。

そんな奴の様子を見て子猫と一緒に首を傾げていれば、



「………ついでにそのネコ預かれる家ねぇかどうか、探してやればいいんじゃね」





中々どうして奴も素直じゃないらしく。

不器用な優しさを目の当たりにして、ヒロヤが背を向けてから噴き出し笑いをこぼしてしまったことは秘密である。




< 357 / 362 >

この作品をシェア

pagetop