サイドキック
ソファーに座を組みテレビと向き合う宏也は、ニヤリと笑みを浮かべるとそのまま私を手招きする。
エコー写真で口許を隠した私は紅潮した頬を悟られないように、俯いたまま奴の隣へ。
―――……今までの、知りたくても叶わなかった「ヒロヤ」は消えたけれど。
「腹冷やすなよ?」
「……うん」
「なんか飲みたいものあるか?」
「ううん、いい」
「もっとこっち来いよ。なんで端に座ってんの」
「………」
素直にお尻をずらして距離を詰めてしまうあたり、何て言うか。
言葉にできないむず痒さに尚も顔を俯けていたけれど、不意にちらりと上げた視線で捉えた奴の横顔に詰まっていた筈の言葉がすらすら飛び出してきた。
「懐かしい夢見たんだ。あの、猫の」
「ネコ?あぁ……。雨に打たれて死にそうだったから、総長命令で預かるとか抜かしやがったやつか」
「……一字一句違い無く……」
「てめぇのことは良く覚えてるらしいんだわ、此処はな」
そんなことを口にして、ニヤリと頬を持ち上げてみせたその男。その指先はちゃっかりその頭を指し示していて。
暫くボケッと間抜け面を晒していた私だったけれど、その意味を理解する内にどんどん茹であがる始末。
「………心臓死ぬ」
「死なせとけ、迎えに行ってやるから」
「さっきも思ったけど。……その言葉なんなの」
「宏也くんの名言に決まってんだろうが」
クッションに顔を埋める私の心情を知っているのか否か、ケラケラ笑い声をあげる奴は此方の髪を指先で巻いて遊んでいるらしく。
髪に神経は無い筈なのに、毛先にまで敏感になってしまう自分が恨めしい。