サイドキック
act.1
常日頃と何ら違わず、私は大学に向かおうと家を出て歩いていた。
快晴に恵まれた天候。その些か眩し過ぎる日差しに瞳を細めながら、すっかり通い慣れてしまった道のりを進んでいく。
こんな生活を始めてから早三年が経とうとしていた。
その間特に変わったことも起こらず、平和な暮らしに慣れ切ってしまった私は"なにかが起こる"という予測すら持ち合わせていない。
「(――……あつい)」
若干熱を孕み始めた外気が鬱陶しさを醸し出す。
そんな時間を経ていく中、不意にソレは起こったのだ。
「――クソがッ!うろちょろ逃げんじゃねぇよ腰抜け」
「あァ?ふざけんなよ、テメェの目は節穴か」
鼓膜を大幅に刺激する罵声。それは私の目の前にある角を曲がった先から聞こえてくるようで、時折混ざる鈍い音にハッとして顔を上げる。
肩に掛けたバッグを握る手に力が籠る。
ぞくぞくと肌は粟立ち、気を緩めれば浮かべてしまいそうな笑みを押し殺すのに必死だった。