サイドキック
忙しない鼓動は未知のものに対する期待に起因していた。
この迷路のような、意味のない毎日から抜け出せるかもしれない。
「―――別に構わないです。髪を切ることくらい」
気付けばそう口にしていた。
私の呟くような声音を耳にした二人は、各々違った表情を浮かべたまま此方を暫し凝視する。
「男になることが条件なら、"俺"は今日女を捨てます」
少女は信じられないと言わんばかりに目を丸くしていて、それに反して金髪男は口角を上げて微笑を浮かべている。
まるで、最初から私がこう言うことを知っていたかのように。
「――――…さっきの話、詳しく教えてもらえませんか」
別に男として生活することを厭う理由なんて無かった。
この頃の私は自分が女であることに嫌気が差していたくらいだから。
この後に私は、金髪の男――昴さんが総長として君臨する"聖龍"という族に身を置くことを即決することになる。