サイドキック

act.6









「――――ユウキ」

「あ?なんだよ」



昴さんとの出逢いから数か月が経とうとしていた。

軍手を嵌め、コンクリートの地面に背を付けながら大型のバイクと向き合っていた私。







不意に鼓膜を叩いた馴染みのある声音に言葉を返すが、視線だけは目の前の機材に向けたまま。


―――"ユウキ"


本名は結城香弥。

別に昴さんは関係の無い名前でも良いと言ってくれたけれど、敢えて名字を選んだのは自分自身への戒めからだ。











いつかは、あの家に帰らなきゃならない。

"ユウキ"と誰かが口にする度に、私はそのことを思い出す。

微温湯につかることで本来の役目を忘れないように。












「走りに行こうぜ」

「はあ?またかよ。サツ撒くの面倒なんだけど」

「まあまあ、カタいこと言うなや」







「行きたきゃ一人で行けばいいだろ、――――ヒロヤ」








呆れ返った表情もそのままに視線を移せば、ニヤリと微笑を浮かべる男を捉える。

"聖龍"に入った私と一番近い距離に居たのは、この頃からコイツだった。








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