サイドキック
act.7
「―――ユウキ、ちょっといいか」
いきなり鼓膜を揺らしたのは低く聞き慣れた声音だった。
初めてこの声を聞いたときの印象と今の認識には大きな違いがある。
この"聖龍"という――昴さんが中心として成していく組織の中で見るその背中は、余りに大きなもので。
「……昴さん、」
「手が空いたらでいい。上に居るから、声掛けてくれ」
「はい」
次第に遠ざかっていくその後ろ姿を見つめながら、渦巻く感情の処理に追われた。
―――私が聖龍に身を置き始めてから、既に二年の歳月が経過していて。
あの日。昴さんと出逢ったあの瞬間に女を捨てたのは私。
唯一その秘密を知る昴さんとはそれから二人で話すことは無かったから。
他の人間に声を掛ける素振りのない彼から判断するに、今し方持ち掛けられた話というのはそれなりに内密なものなのだろうか。
「(―――……、)」
機材を手にして汚れた手を、軍手の中で力無く握り締めた。