サイドキック
「(――見たい)」
スリルなど皆無な日常は穏やかなものに他ならなかったが、久方振りに感じる緊張の高まりに胸の高鳴りを隠せない。
コンクリートで固められた住宅街の角からそっと向こうの様子を窺えば、
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
「やれるモンならやってみろよゴラァッ」
まさに丁度のタイミング。拳を振り上げた男子高生二人が互いの胸倉を掴み、相手の頬へとその拳を捻じ込もうとしていた。
――と、そのとき。
「――……ッ!」
界隈に響き渡ったのは私のスマホの着信音だった。
特別静かだった訳ではないけれど、こんな高音ならばあの二人にも聞こえている筈。
「(……最後まで見たかったのに)」
若干の不満を抱きながらスマホを片耳へと宛がい、面倒なことが起こらない内に早急に踵を返した。
――――――――――――…
「はい、もしも――」
"香弥《かや》!?アンタいまどこいんの!"
「……、…向かってる途中」