サイドキック
少し距離を隔てたところからそう言葉を発したのはユウキさんだった。
その漆黒の瞳は揺らぐことなく俺を見据えていて、言外に「もう反抗するな」と言われている気がして敢え無く口を噤む。
「族潰しの狼が偉くなったモンだな」
「一端に総長気取りか?笑わせる」
「気取りじゃなくて総長なんだろ、まあ先代と比べちゃ可哀相だけどな」
遠慮なんて言葉を知りもしない男たちは下品な笑いを界隈一杯に轟かせる。
それを目の当りにした俺は余っ程腸が煮えくり返る思いを抱えていたけれど、当の本人はと言うと。
「――――御託は以上か?」
怒りもしなければ笑いもせず、無表情でその場に佇み終いにはそう零してみせる。
それを隣で見ていたヒロヤさんも薄笑いを浮かべると「さっさと始めようぜ」と肩をまわしていて。
あの人らが統率する組織に身を置く俺でさえ、ぞっと肌が粟立つような感覚を覚えた。
「遠慮はしない」
ユウキさんのその声が合図となり、優に百人を超すであろう人間が地を蹴って走り出す。
俺はその光景を、遠退く意識の中で見詰めていた。