サイドキック
耳を劈くように響いたのは、私とは違ってソプラノの声音だった。
だが先程の不満をそのまま継続していた私は、そんな彼女の言葉に対し若干口を尖らせて応酬する。
"遅刻するっての!早く来てよ、今日の講義大事だって言ってたじゃん"
「……あれ、そうだっけ」
"そうだっけ、じゃないよ!あー…もう、香弥はこれだから"
しょうがない、と。呆れ返って音に乗せられたものだからムッと顔を顰めてしまう。
「わかってるし!もうちょっとで着くから待ってて」
"……知らないよー。遅れたらホント知らないから"
「分かってるし!もう、急ぐから切るよっ」
相手の了承も得ないままに通話終了を指先でタップした。
そのままスマホをバッグへと突っ込んだ私の脳裏には、
"――ヒロヤ、"
"わぁってるっつの。後ろは俺に任せとけ"
"……、おー"
少しだけ、昔の記憶が掠めていた。