サイドキック
至って真面目に言葉を落とした私とは対照的に、電話口向こうの男からはクツリと笑みが零れてノイズへと姿を変える。
柔に耳朶を撫でるそれがむず痒くてムッと眉根を寄せる私。
"切るねぇ"
「……なにが可笑しい」
"いや別に?むしろ今すぐ切ってくれても構わな――"
ブツッと音を立てて通話を終了させる。
努めて無表情を保ってそれを数秒見詰めた私は、何事も無かったように踵を返して再度カフェテリアを目指す。
「(ムカつくムカつく、ムッカつく!)」
余っ程地団駄を踏みたい思いだったことは事実。
こんな風にアイツに振り回されて腹を立てている自分にも物凄く息巻いていて。
私が眉尻を吊り上げて歩を進めるテンポに合わせて、背中の真ん中まで伸びた緩パーマブラウンの髪が躍る。
三年間毎日のように施してきて漸く板に付いたメイク。
上向きにカールされた睫毛に乗るマスカラが、瞬きと共に揺れ動く。
「切っていいっつったのは、こーゆーことなんだけど?」
――――――嗚呼、何処までもあの頃の"俺"と今の"私"は、違う。