サイドキック
不意に背後から鼓膜を刺激した声音にハッと息を呑みこんだ。
「―――…ッ、なんで!」
「もう来ちまったからな。そう言おうと思ったらお前は躊躇なく切るし」
「当たり前だろ!つーかなんでそんなに俺に構うんだよ、いつもみたいに女のケツ追ってればいいだろ――」
眉根を寄せての振り返りざま。
自らの髪が一度ふわりと舞ってから視界が捉えたのは、いつものチャラいスタイルを守ったヒロヤがニヤリと口角を上げている姿だった。
「お前だって女じゃねぇか」
「………クソ野郎が」
「ほら、いーから行くぞ」
動揺も何も無い奴は私の腕を掴むと、そのままの足取りで大学の敷地を出ようとする。
そんなヒロヤの姿を認めた女子が「ウッソ、超カッコいいんだけど」なんて黄色い声で零すのを耳が拾ってしまって。
そのまま怪訝さ剥き出しの表情で奴を睨み上げていた私に気付いた男は流し目で此方を捉えると、「なに」と素気なく音にする。
くそ、くそくそくそ。
私ばかり意味不明の動悸に見舞われて馬鹿みたいだ。
実はこんな風に大学にコイツが現れるのは、初めてでは無かったりする。