サイドキック
「―――なッ、おい!!」
「静かにしやがれ」
「何なんだよお前!行かないって言ってるだろ――」
「オトモダチにその本性バレてもいいのか?」
「………っ、」
瞬間的に引き寄せられた身体は自分のものに他ならなくて。
悪役染みた台詞を口角上げて落とすヒロヤは、私とは対照的に余裕の笑みを浮かべている。
「(くっそ、)」
本当にムカつく。その顔面に今すぐ殴り付けてやりたい。
此方の肩に乗せられたのはヒロヤの腕で、密着する身体からは体温が伝わってくる。
早鐘のリズムで打ち付ける心臓が私のものなんて信じたくも無い。
鼻腔を擽るムスクの柔な香りがむず痒さを煽ってくる。
所謂恋人のような姿勢で歩を進めていく私たちは、傍から見ればカップルに見えなくも無いような気がする。
………て言うか、間違い無くそう見られている気がする。
「(香弥ぁあああああッ!)」
ちらりと視線を少し距離を隔てたところへと伸ばせば、友人たちがその口許を華奢な手のひらで覆ってガン見・凝視の視線を飛ばしてきていた。