サイドキック
私渾身のローキックをまともに受けた眼前の男は、「くそ……、お前…」と呟きながら崩れ落ちる。
それを心底冷めた眼差しで見詰めていた私は、直ぐ様くるりと身体を反転させるともと来た道を引き返そうとした。
の、だけれど。
「ちょっと待てユウキ」
「………しつこい」
「つーか痛ぇ…、さすがは元総長」
ヒットした場所であるすねを頻りに擦りながら又もや此方へと距離を詰めてくるヒロヤ。
それを視線で捉える私の眉根には皺が刻まれる。
このローキックだって、現役の頃だったらコイツの復活まで暫く掛かった筈なのに。
「――――サイアク」
睨むように視線を送る中で零した独白は、ヒロヤに向けたものと言うよりは私自身へ向けたモノだった。
「……、なんで俺に付き纏うんだよ」
「ダチを誘っちゃ悪い理由でもあんのか?」
「よく言う。何年も連絡取ってなかっただろうが」
結局は、あのファミレスで私の正体が露見していなかったら。
また以前のようにお互い別の道を歩んで、こうして言葉を交わすことも無かった筈なのに。