サイドキック
act.10
―――――あの日の自宅の物々しい雰囲気を、俺はいつまで経っても忘れることが出来ない
「(なんだ……?誰もいねぇなんてヘンだな)」
無駄にでかい家の敷地に足を踏み入れると、日頃とは全く異なるその空気に一瞬息が詰まった。
何かがあったことは、一目瞭然で。
「坊ちゃま!!」
不意に鼓膜を叩いた聞き慣れた声音に顔を向けると、もうすっかり老齢となった使用人が血相を変えて走り寄ってきていて。
いつもなら「その呼び方はやめろ」と言うところ。
しかしながらそんなジイさんの緊迫した雰囲気が俺の言葉を奪ってしまった。
「――――、どうした?」
「大変です…!お兄様が、」
「兄貴?」
眉根を寄せて思考を巡らせた。
しかしながら考えたところで答えに辿りつける訳も無く、徐にポケットへと腕を伸ばした俺は自身のスマホを見て愕然とする。
「は、…………何だよコレ」
埋め尽す不在着信の嵐に、胸中を燻ぶる不安は増大の一途を辿る。