サイドキック
「あたしのことなんて心配しなくていいのよ!今日も香弥ちゃんが無事に帰ってきてくれて良かった」
ニコニコと花開くような笑みで言葉を音に乗せていく彼女。
年齢不詳とは善く言ったものだ。彼女を前にすれば、大抵の男が鼻の下を長くすることは間違いない。
「何それ。ちゃんと帰ってくるよ」
思わず眉尻を下げてそう口にしていた。
そんな私の様子をどのように捉えたのだろうか。
急に笑顔を引っ込めた彼女は、「ごめんね」と震える声で紡ぎ出したから驚く。
「お母さん。部屋に行こう」
周りで所在なさげに視線を泳がせるメイドさんたちに仕事に戻るよう告げ、一気に元気が無くなってしまった母の手を引いて歩を進める。
「(……謝るのは私のほうだよ)」
私がちゃんとしていなかったから。これまでどれ程彼女を傷付けてきたのか、それはもう計り知れないほどに。