サイドキック
頭部を鈍器で殴られたような衝撃が襲い掛かってくる。
サトル―――、小宮山智は俺の兄貴だ。
昨日まで普通に笑って、話して、普通に生活していたのに。
「――――…親父、病院の場所教えてくれ。俺もすぐ向かう」
自分の部屋に置いてあった車のキーを掴むと、直ぐに踵を返してその場をあとにした。
――――――――――――…
受付で名前を告げると案内された病院内の一室。
厭に鼓動する心臓を服の上から押さえ付けたまま、導かれるように部屋の中央に向かって歩を進めた。
「……宏也…、」
足を踏み入れて直ぐに鼓膜を叩いたのは、涙に濡れた母親の高めの声音で。
何とも言えぬ面持ちでそれを数秒見詰めた俺は、両親が囲うようにして身を置いている中央を覗き込む。
「――――………、兄貴」
ぽつり、と。
飛び出した言葉は白い布で顔を覆われた男にはもう届くことはなくて。
頻りに嗚咽を洩らす母親の声を遠くに感じながら、ただひたすら視線を落として亡骸と化した兄貴を呆然と見詰めていた。