見えない世界でみつけたもの
「くそっ……急がないと静がっ」

 足元に何もないか確認しながら、一歩、一歩、歩いていく。

 闇の中を歩く恐怖が俺を襲う。

 急がないと――でも怖い。手探りで進む俺の手が何かに触れた。玄関から一番近くにはあるのは、リビングのドアだ。

「ドアノブはどこだ……」

 ドアに手を這わし、指を動かしながらノブを探すと、すぐに触れる感触があった。

 ノブを掴んで廻すと、ドアの開く音が聞こえてきたので、ゆっくりと開けてリビングへと入っていく。

 電話は確か、入ってすぐにあったはず。手探りで電話を探すが、それらしきものに中々触れる事が出来ない。

 そう思っていたら、何かが俺に手に触れた。『電話か』と思った瞬間、何かが割れる音が俺の鼓膜を震わしていった。

「な、なんだ……?」

 足元に冷たい感触が触れる。

 靴下に染み込んできた冷たい感触は水だろうか?

 どうやら電話の横に一輪挿しの花瓶を落としたみたいだ。でも今はそんな事に構っている暇はない。

 電話はどこだ……俺は手探りで電話機を探す。

 こんな事なら携帯を解約するんじゃなかった。俺にはもう必要ないと思ったが、まさか必要になるとは思いもよらなかった。

「確か……この辺だったと思うが」

 サイドボードに手を付きながら探していると指が何かに触れていた。クルクルと螺旋状に巻かれた紐のようなものは、受話器のコードだ。

「あ、あった――痛っ」

 見つかった喜びに一歩踏み出した瞬間、足の裏に鋭い痛みが走った。

「いってえな……くそっ」

 何が起こったんだ?

 何かを踏んだみたいだったが、俺は何を踏んだんだ?
 
 見えない事が、一人でいる事が、これほど怖いとは思わなかった。でも、そんな泣き言を言っている場合ではない。
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