水槽日

こんな地味な私と仲良くなってくれた、元気のいいバレー部さん。


『一目惚れだよ!絶対仲良くなろうって思っちゃった』


なぜ入学式当日に声をかけてくれたのだと聞いてみると、そう返されたことがあった。

私は何度、夏子ちゃんの笑顔に救われたことか。


「詩織?どうしたのボーっとして。あ、頭痛い?雨降ってきちゃったもんね…」


「ううん違う違う、大丈夫だよ!」


夏子ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくれた。

首を振って否定すれば、安心したように笑ってくれる。


これ、低気圧で起こる、頭痛。

雨が激しいときはそれに比例して、私の頭痛も酷くなる。

今日は平気みたい。



と思っていたけれど。

放課後。

部活中の夏子ちゃんと一緒に帰るため教室にいる。

待っているのだけれど…。

外を見れば激しい雨。


「うー…頭痛いなぁ…」


こうなると寝る気も失せてしまう。

仕方ないので誰もいない教室を出て、廊下を歩くことにした。

気晴らし、気晴らし。

そして3階の端。

理科室の前に来た。

大きな水槽の中に、金魚が2匹。


「おぉ…ちょっと可愛いかも」


黒と赤。

鱗が電気に照らされ、キラキラと輝いている。

君たち、2匹で寂しくないのかい?

頭の中で話しかけてみても、痛みは治まらない。

くそぉ…。

半泣きで金魚を眺める。





その時




…え?

急に聞こえてきたのは、ピアノの音。

知っているメロディ、きっとこれはショパンの別れの曲。

美しい旋律は、優しく耳に触れる様で。


気づいたら、頭の痛みはなくなっていた。
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