水槽日

多分、音楽室だよね…。

数学の授業中、昨日の事を思い出していた。

あの後、部活が終わる時間が近づいていて、音楽室には行かずすぐ教室に戻ってしまった。

つまり、誰が弾いていたのか正体は突き止められていない。

音楽の先生かな。

選択授業は美術を選択しちゃったから、音楽の先生は知らないや。


それにしても、上手だったなぁ。


全くピアノの知識がないわけではない私。

幼い頃習っていたから、多少は上手い下手は分かる。

昨日聞いたのは、もちろん前者。

柔らかいタッチは心地よく、心全て委ねてしまうような

そんな感覚に陥った。


目の前で聞いてみたいなぁ。


「…せ、広瀬、大丈夫か」


「へ?」


ボケーっとしていたら、いつの間にか目の前に田辺先生が立っていた。


「だいじょーぶー?えっと、誰だっけ」「広瀬さんだよ、何言ってんの」「あー、お手本の広瀬さんね」


クラスからそんな声が飛び交う。

やっぱりこのクラスでの私の印象はないらしい。

しいて言うなら昨日先生が言っていた「お手本」だ。

こんなの慣れっこだから大丈夫。


「すいません、ボーっとしてました」


そう笑うと、「そうか」と先生は黒板に戻っていった。


「広瀬が学級委員長だよな。苦労人だなー、このクラスまとめんの大変だろ」


軽い口調で、そう先生が言った。

すると、誰かが声を上げた。


「ちがうよせんせー。委員長は陽翔だよ」


ねー、と太陽くんに首をかしげる女子。

先生はギョッとした顔をして、「まじ…」と呟いた。

教卓の前の席でピースサインをするのは、太陽くん。


「このクラスの代表者でーす」


「不真面目代表の間違いだろ…。んだお前、立候補したのか」


「んー?クラスの女子が推薦してくれた。何人か忘れたけど」


「はぁ?その頭でか?」


「いーでしょこの金髪」


後ろからじゃ見えないけど、きっとキラッキラの笑顔なんだろうなぁ。
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