水槽日

水槽の前の方が、よく聞こえる。

居てもたってもいられなくなったので、私はすぐに理科室前に行った。

3階の端。

うん、やっぱりここが一番聞こえるかも。



よく考えてみれば、私がピアノの音を聞いたのは丁度一週間前。

つまり、水曜日だ。

水曜日ならぬ、水槽日。


「誰が弾いてるのかな…」




休日。

久しぶりにピアノを弾こうと、ホコリがかぶっている電子ピアノの掃除をした。

昔の楽譜を引っ張り出し、めくってみる。


「どうせなら、ショパン弾きたいな」


急いで着替えて、お母さんに出かけることを伝える。

自転車で駅に向かい、電車に乗る。

こんなに行動力あったっけ私…。

そして、よく通っていたお店でショパンの別れの曲の楽譜を買ってしまった。


帰り。

最寄りの駅に着き、駐輪場に向かう。

衝動買いしちゃったなぁ…。

弾けるように練習しなきゃ。

そんなことを考えならが自分の自転車を探していると、何人かの男女の声が聞こえた。

チラッと見て見れば、私の自転車のすぐそばで集まる集団が。

ちゃ、ちゃらい…。

行きたくない。あの人たちが行くまで待ってようかな。

そう思った時、私は見つけてしまう。


「た、太陽くんだ…」


ぼそっと呟くと、目が合ってしまった。


「広瀬…?」


まずい、名前まで呼ばれてしまった。

そばにいた女子と男子が一斉に私を見る。


「誰ー?陽翔の友達?」


一番キラキラしてる女の子が、太陽くんの肩に手を置く。


「うん、そう。クラスメイト」


「あんな地味な子うちの学校にいたっけ?」「知らなぁい」


他の女子も便乗して言い出す。

あ、これは嫌な雰囲気になっちゃうやつだ。

早く行かなきゃ、太陽くんも困った顔してる。

私は走って自分の自転車を取り、すぐに出て行った。


「広瀬!!」


後ろで太陽くんが私の名前を呼んだけど、聞こえないふりをして自転車を漕いだ。
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