水槽日

「詩織、元気ない?」


「へ?」


休み時間。

夏子ちゃんに顔を覗き込まれていたことに気づかず、ボーっとしていた。


「そんなことないよ!ありがとう」


へらっと笑って見せれば、夏子ちゃんも安心してくれたのか笑ってくれた。

少し、昨日の事を思い出していた。

太陽くんの最寄駅は、私と同じだったのかな。

だからあの駐輪場にいたのかな。

もしかしたら、通学する時に会うかもしれない。

…って、こんなこと気になってはいない。

実は、心配しているのだ。

太陽くんのクラスメイトは、こんな地味な私。

太陽くんの周りの友達が太陽くんと私が仲が良いなんて勘違いしてしまったら、太陽くんに迷惑かけることになる。

なんであの時、名前を呼んでくれたんだろう…。


その時、ちょんちょんっと肩を叩かれた。

振り向けばそこには


「広瀬、おはよ」


「太陽くん…」


八重歯を見せ笑う太陽くんが。


「俺、陽翔だけど…」


「あ!ちが!ごめんなさい忘れて!」


「確かに、陽翔って太陽の陽って字あるけどさ」


どうしよ、咄嗟に太陽くんって呼んじゃった…。


「広瀬って面白いのな」


くくっと喉を鳴らして、おかしそうに口角を上げる彼。

笑った顔が、王子様みたいだ。

思わず見惚れてしまう。


「なぁ、昨日の事なんだけどさ」


そう太陽くんが何か言いかけたとき

クラス一美少女の坂口 杏里(サカグチ アンリ)さんが太陽くんに近寄ってきた。


「陽翔、何してるのー?」


「ん?いや、広瀬とちょっと話してて」


彼女も太陽くんと同じように髪を染めていて、茶髪だ。

大きな瞳に長いまつ毛。

よく男の子に話しかけられているのを目にする。
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