水槽日

二人を見ていると、本当に美男美女。

お似合い、だ。


「へー…広瀬さん、おはよー」


「お、おはよう」


「反応かわいー」


長いまつ毛を伏せ、クスクスと笑う姿は愛らしい。

可愛いのは坂口さんの方ですよ。


「広瀬ごめん、また声かけるわ」


そう言うと、太陽くんは坂口さんを連れて自分の席に戻ってしまった。

なんで私に話しかけてくれるんだろう。

ちょっと挨拶して、ちょっと昨日会って。

それくらいなのに、な。





「ねぇ、広瀬さんって放課後暇?」


帰りのHR、先生が来る前に何人かの女子が私の元に来た。

どうしよう、名前分からないかも…。


「う、うん。部活が終わる時間まで教室にいるよ」


「ほんと?ラッキー!ちょっと掃除当番代わってくれない?この子大事な用事があるらしくてさー」


先頭にいた女子が、後ろにいた女子と目を合わせる。

「ねー」と女子特有の合図を交わし、私にもう一度向き合う。


「いいよ!」


「うそやった!ありがとねー!」


クラスメイトに頼られた。

すごく、嬉しい。


HRが終わり、皆帰って行った。

私は一人黒板に向かう。

私の学校では日直が掃除を行う。

日直は二人いて、一人はゴミ捨て。

もう一人は黒板掃除をして、先生が育てている観葉植物の手入れをする。

けど今日は片方の日直が休んでしまったので、一人でやらなくてはいけない。

頼ってもらった分、頑張らなくちゃ。


背伸びして、黒板消しで書き残された数学の方程式を消す。

う、上の方が…待って私ってこんなに身長低かったっけ。

どんなに頑張っても届かない。


その時。


ふわっと、後ろから覆いかぶさるように誰かが私の手に自分の手を重ねた。


「なーにしてんの」


私から黒板消しを取ると、代わりに消してくれて。

この声は、分かる。分かってしまう。

振り向きたいけど、振り向けない。

だって、距離があまりにも近いから。

心拍数が徐々に上がり、ドクドクと心臓が躍り出す。


「なぁ、なんで一人?」


やっと離れてくれたのでそちらを見れば、やっぱり正体は太陽くんで。


「頼まれちゃって」


「は?今日の日直、菜穂(ナホ)でしょ」
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