水槽日
二人を見ていると、本当に美男美女。
お似合い、だ。
「へー…広瀬さん、おはよー」
「お、おはよう」
「反応かわいー」
長いまつ毛を伏せ、クスクスと笑う姿は愛らしい。
可愛いのは坂口さんの方ですよ。
「広瀬ごめん、また声かけるわ」
そう言うと、太陽くんは坂口さんを連れて自分の席に戻ってしまった。
なんで私に話しかけてくれるんだろう。
ちょっと挨拶して、ちょっと昨日会って。
それくらいなのに、な。
☕
「ねぇ、広瀬さんって放課後暇?」
帰りのHR、先生が来る前に何人かの女子が私の元に来た。
どうしよう、名前分からないかも…。
「う、うん。部活が終わる時間まで教室にいるよ」
「ほんと?ラッキー!ちょっと掃除当番代わってくれない?この子大事な用事があるらしくてさー」
先頭にいた女子が、後ろにいた女子と目を合わせる。
「ねー」と女子特有の合図を交わし、私にもう一度向き合う。
「いいよ!」
「うそやった!ありがとねー!」
クラスメイトに頼られた。
すごく、嬉しい。
HRが終わり、皆帰って行った。
私は一人黒板に向かう。
私の学校では日直が掃除を行う。
日直は二人いて、一人はゴミ捨て。
もう一人は黒板掃除をして、先生が育てている観葉植物の手入れをする。
けど今日は片方の日直が休んでしまったので、一人でやらなくてはいけない。
頼ってもらった分、頑張らなくちゃ。
背伸びして、黒板消しで書き残された数学の方程式を消す。
う、上の方が…待って私ってこんなに身長低かったっけ。
どんなに頑張っても届かない。
その時。
ふわっと、後ろから覆いかぶさるように誰かが私の手に自分の手を重ねた。
「なーにしてんの」
私から黒板消しを取ると、代わりに消してくれて。
この声は、分かる。分かってしまう。
振り向きたいけど、振り向けない。
だって、距離があまりにも近いから。
心拍数が徐々に上がり、ドクドクと心臓が躍り出す。
「なぁ、なんで一人?」
やっと離れてくれたのでそちらを見れば、やっぱり正体は太陽くんで。
「頼まれちゃって」
「は?今日の日直、菜穂(ナホ)でしょ」