君が幸せなら、それでいい。
「優ちゃん。」

凛の声が遠くで聞こえた気がした。

「優ちゃん。私行くね。」

その言葉と共に目の前に凛が現れる。凛は酷く悲しそうな顔をしていて、左目には一筋の涙が流れていた。
僕は咄嗟に声を出した、つもりだった。
出したはずの声は空気となって僕の口から出ていく。
その間に凛は僕からどんどん遠ざかっていく。凛の後ろ姿を見て、一生会えない、そんな気がして。僕は左手を大きく伸ばした。
でも、その左手も空を切るだけだった。
凛、行かないで。何度言っても届かない言葉。
ふと、凛が僕の方を向いた。

「優ちゃん。」

確かにそう口が動いた。
僕の名前を読んでいる。凛が僕を必要としている。

「優ちゃん!」

大声で叫んだのか少しだけ僕の耳にその声が届く。
なんで、声は聞こえるのに、こんなにも不安なんだろう。この距離感は一体なんだ。
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