諸々ファンタジー5作品
『静けさ』



新王の政策として、労働者を募る布告がなされた。

裏があるのは、タイドフが一番よく知っているだろう。

この小さな国、ミャーダにある小さな炎。消す術を知っているかのように、大国の静けさが包む。

波紋を知るミャーダの民。揺れる……揺れて、燃え上がる。それは、憎しみなのか……恐れなのか……ワタシも同じ思い。



「ロスト、食糧庫の責任者を変えたな?恨んでいるぞ。」

「知っている。平和なんだ、恨める余裕があるうちは。」

「お前に、余裕がないようには見えないけど?」

「セイラッド、俺を知るな。知らなくていい。募った記憶は、思考を増やす。心も動く……」

「王の命令でね、邪魔者は消したよ。」

「……そうか。進もう、未来へ。」



幸せも、何かの犠牲を伴う。

問題のないところはない。すべてに正しいことも、何かを犠牲にしながら……



「王に伝えてくれたか?」

「あぁ、兵士は少なく……だろ?家族のない者。俺のような者を集めた。必死になるのは、家族を持つ者……戦力を失った。」

「ふっ、そうだね。君は知る……本当の強さを。」

この言葉を知るのは、意外と簡単だった。

戦火の心情など、誰が分かるだろう?戦士として育ったセイラッドでさえ、理解できなかった。

戦が、どれほど人の心を惑わすのか。

醜い?人間の本質。偽りのない真っ直ぐな欲望……それを、誰が否定する?

誰にも、そんな資格はない。裏切りさえ……理解する時代。



「百人を選出。常に五人で行動。週一で二十人の集まりを行う。月一で五十人の集まり。3か月後には、試験だ。」

戦は百人態勢だが、実際に闘うのは二十人。一人はロスト。一人はセイラッド……

他3人が生活を共にすることになる。

厳選に厳選……セイラッドには、時間の無駄だと思えた。同じ能力なら……同じ。



5人の仲間が組み分けられ、顔を合わせる。

ロストは、城の一角に居住を定めた。セイラッドは、書類に目を通し、淡々と紹介を始める。

「俺は、セイラッド。戦士。隣がロスト。薬師。パン屋のアクルは、挙手を。」

「はい。」

体格のいい優しそうな青年。

「次、季節労働のゾグタ。」

「はい。」

彼は色黒で、鋭い眼をしていた。

「残るのが、楽士のクルヒ。」

「はい。」

一番、体力がないような雰囲気。

「以上、5名での生活を始める。」

簡単な挨拶で、セイラッドは自分の作業に移ろうとする。

「セイラッド、俺達は何をすればいい?分担は?」

尋ねたのはゾグタ。

「知らねぇ。俺は共同生活だろうが一人だろうが関係ない。」

ロストは、少し驚いた。

常に、自分に探るような態度をとってきたセイラッドが、無関心な態度。言葉を出すか様子を見ているロストを、じっと見つめる。

セイラッドには、ロストの行動だけが関心の的。求める答えへの道だったのかもしれない。

「セイラッド、俺達は試験に受かることを目指している。戦いを学びたい……教えてくれないか?」

そう言ったのは、パン屋のアクル。

「目指さない奴は、ここにはいない。教えるのは簡単だ。しかし……いや、試してみるのも良いか。来いよ、目立たないところへ行こうぜ!」

セイラッドの目は、戦士。敵意を向けたのは一人。

国からの支給の剣をそれぞれに、武器庫から与える。同じ長さで、同じ形。



森の入り口。

3人を立たせる。手には、鞘に入ったままの剣。

セイラッドは先を歩き、姿が見えなくなるところまで移動した。ロストは、高い木の上で見学。

「アクル、歩いて来い!」

セイラッドの合図に、アクルは森の奥へと足を進めた。

日の差し込みが木々に邪魔され、闇が包む。セイラッドの姿を探しながら……

【ガササッ】物音に、アクルは反応した。

自分の視界を妨げる物に、剣を振るう。目を閉じ、鞘に入ったままの剣。

「アクル、良い反応だ。しかし、修行が足りないね。」

「俺は、パン屋だった!戦士の君とは違う。生きてきた世界が!それでも、自分が生きるため……この試験に受かる!」

優しい表情が、険しい感情を露わにする。

「あぁ、君には素質がある。何を学んだ?」

「……何を……?」

「さ、宿題だ。ここの脇道から城に戻れ。期限はない……俺には、ね。」

意地悪な笑みで、アクルを見送るセイラッド。その会話をメモするロスト。

ロストは、セイラッドの教育方法が興味深かった。自分の知識に、触れる何か。期待と満足……共に味わい。

「クルヒ、来いよ!」

楽士の彼は、森の中へと足を進めた。

セイラッドは、鼻歌で彼を待っている。現れた彼は、剣を腰に差したままで、セイラッドの前に辿り着いた。

「クルヒ、どうして剣を準備していない?」

「え?使わないから、邪魔にならないように。」

「そうか。危機感……どうすれば培えるのか、考えろ。この目的も。」

セイラッドは、クルヒにアクルと同じ道を促す。

クルヒの後姿を見送り、セイラッドはゾグタを呼んだ。

物陰に隠れ、不意を突いて襲いかかった!

【カキッ……―ィン……】響く金属音。

「ふ。出来るね、ゾグタ。期待を裏切らない。来いよ!太刀筋を、見えるところで振るえ。」

セイラッドの目は鋭く、眼が戦士の闘志を見せた。



「ロスト、行け。俺は、俺のやり方を通す。お前には時間がない。充分だろ?」

「あぁ、充分だ。面白いものを見たね。セイラッド、恨まないで。時代なんだ……」

ロストは、軽い身のこなしで木から下りる。セイラッドに背を向け……歩くのは、城への道。



彼らは、裏切り者を見た。

しかし、共に過ごす。



静けさ。嵐の前の……穏やかでもない。平和でもない。戦時の静けさ……

身に受けるのは、冷たい空気と張りつめた緊張。

これから、5人の戦が始まる。闘うのは大国タイドフ……敵が同じとは限らない。



裏切りも、味方も関係なく……静けさの中で…………




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