諸々ファンタジー5作品
アヤカシだって生きてます!
好きだと言えば困りますか・・
私たちは天井のない家から出て、神域の範囲なのか水の上に立つ。徐々にその神域を狭めるかのように、水が引いて。
家は消え、私を囲うような水の壁が出来上がる。向こう側がほとんど擦れて見えないような厚さ。
「告美、ごめんな。少しの間、そこで待っといてほしいんよ。」
囮作戦は、私抜きで話が出来ていたのかな。私とは違う方法で、先を視る光莉と猫塚先生。
見つめる水の壁に、小さな輪が浮かび上がる。
「状況を知らずに待つのは、不安だよね。」
姫鏡くんの声。配慮なのかな。
「ありがとう。それと、ごめんなさい。」
勝手に『理想』を重ね、姫鏡くんの側に何があったのかも知らず。また私は自分の事ばかり。
鏡は上からの視点で、状況を映し出す。これは大鷹くんの目を通して見ているのかな。
学校の屋上に、燐火の満ちる社。台座に、一つの炎を手にして見つめる白狐。人型ではなく、真っ白な狐。
尻尾が幾重にもなって、炎の様に揺らめく。手にしていた炎を喰らい、空を駆けるように飛び立った。
目指して来るのは、この場所。
背筋も凍るような寒気。これが私の父、本来の姿。
光莉の神域を表す水面に足を付け、舐めつくすような炎が一気に拡がる。
青白い炎を真っ二つに裂く風。その一撃は猫塚先生の鎌、一振り。
「白狐、あなたの喰らった炎を回収するわ。死して尚、その配下に留めるのが誰であろうと、理に反する。私は猫又、墓護り。」
鎌を回しながら、確実に距離を縮めていく猫塚先生。
それに対し、父は怯むことなく炎を吐き出す。力の差に、ただ息を呑んだ。
「くくっ。神落ちなんて言葉だけだよ。理に反する?減退こそ無意味。神仕えは、数が減るけれど能力の減退はない。寧ろ、力を蓄えた宝庫。」
そんな理由で母を配下に?
違うと信じたい。獣の姿とはいえ、手にした炎を見つめる視線は。幸せな時間が嘘だったとは思えない。
「お父さん、もう止めて!」
私と同じ声が響く。鏡に映るのは、鵺に変化した私の姿。お母さんと同じ。
なのに。父は、更に大きな炎を吐いて攻撃した。信じられないような光景に、目の前が暗くなるような感覚。
言葉を失い、自分の代わりに囮となった彼らが心配になる。
鏡に近づくと、それが割れて。私を囲っていた水の壁も崩れ、鏡越しに見ていたはずの白い狐が目の前に。
視線が合い、一気に震えが生じた。
父は私に突進し、腹部に打撃を加える。ふらついた私を背に乗せ、軽やかに空を飛んだ。
見下ろす景色は、地獄絵図のように闇に染まっていた。
猫塚先生の力なのかもしれないけれど。明らかに傷を負った光莉、屈狸くんと姫鏡くんの地面に倒れている姿が目に入る。
「告美!」
叫ぶ声に目を向ける。
少し離れた場所に居た大鷹くんの額から片目に、血が流れていた。
自分の父が何をしたのか。
「酷い。どうして、こんな事。」
変化すれば、この状況から逃げる事が出来るかもしれない。
だけど、力が出なかった。力の差に、恐れを抱いているのは確か。
逃げても、他に行く場所がない。
傷つけてしまった。これ以上、皆に迷惑をかけられない。
父は邪魔をする皆に傷を負わせ、力の差に満足したのか、居場所の特定されている社に帰る。
私を地面に下ろし、小さな炎を口から出した。
「母さんと居なさい。“僕”は、少し休むから。」
表情は読めないけれど、優しい声に感情が揺さぶられる。
憎めない。涙が溢れ、どうすることも出来ずに、情けなさで一杯になる。
「告美。お父さんも、どうしていいのか迷っているのよ。」
幼き日の思い出。もう会えないと思っていた母。
柔らかさを感じるのに、体温のない抱擁。
「お母さん……」
理に反しても、失いたくないと願うのは……間違った事なのかな。
「告美、私が託した夢は見ることができたかしら。」
頭を撫で、私の顔を不安そうな表情で覗き込む母。
それに対して答えるため、顔を上げた。
「鏡のアヤカシの能力で、周りの状況を含めて視ることが出来た。」
私の答えに、失望に近いような落胆の見える顔色。
「あなた獏とは、まだジンマに出逢っていないの?そんな。まさか未来が変わってしまったのだとすれば、私は。」
母の目に、涙が浮かんで零れ落ちた一筋。
「お母さん、出逢っているわ。だけど。悪夢を受け取った事も彼は知っていながら、私に中身を告げようとはしなかった。」
当然なのかもしれない。
獏は悪夢を奪う。私たちみたいに不吉を告げる役目ではないから。
「私が視た不吉。あなたに告げる。『ジンマ』の翼が漆黒に染まるなら、あなたの夢は全て……吉凶を萌す能力をも奪われてしまうだろう。」
縁起の良し悪し全て。
母の告げた不吉は、もう私に臨んでいるのだろう。聞くのも、気付くのも遅かった。
「まるで彼の翼は悪魔のように黒くて、深い闇を連想させた。友達が教えてくれて、気付いたけれど。私は数日、夢を覚えていない。」
お母さんの私を抱き寄せる力が強くなる。少しの震え。
「潔(すぐる)は、どうなるの……。告美、あなたの父は理に反した。最悪の事態を避けるため私は、獏に協力したつもりだったのに。彼女の息子は、あなたを殺すかもしれない。」
私を殺す。獏の息子、一翔が私を。
私の命が奪われる事と、父が理に反した事は関係があるの?
もしそうなら今の状況は、最悪の事態。
そうだとしても。
そっと押して、抱きしめていた母から体を離す。
「お母さん、ごめんなさい。私は……彼が獏でも、ジンマでもいい。一翔が私を殺すのならば、私はその不吉を受け入れる。」
どちらであっても、私の信頼は揺るがない。
心乱されても、不吉を萌す役目を奪われても、彼に会いたいと願う。
「彼が何者でも、理に反しても……この想いは貫く。」
母の表情が更に曇る。
彼を、一翔を好きだと言えば困りますか・・
私たちは天井のない家から出て、神域の範囲なのか水の上に立つ。徐々にその神域を狭めるかのように、水が引いて。
家は消え、私を囲うような水の壁が出来上がる。向こう側がほとんど擦れて見えないような厚さ。
「告美、ごめんな。少しの間、そこで待っといてほしいんよ。」
囮作戦は、私抜きで話が出来ていたのかな。私とは違う方法で、先を視る光莉と猫塚先生。
見つめる水の壁に、小さな輪が浮かび上がる。
「状況を知らずに待つのは、不安だよね。」
姫鏡くんの声。配慮なのかな。
「ありがとう。それと、ごめんなさい。」
勝手に『理想』を重ね、姫鏡くんの側に何があったのかも知らず。また私は自分の事ばかり。
鏡は上からの視点で、状況を映し出す。これは大鷹くんの目を通して見ているのかな。
学校の屋上に、燐火の満ちる社。台座に、一つの炎を手にして見つめる白狐。人型ではなく、真っ白な狐。
尻尾が幾重にもなって、炎の様に揺らめく。手にしていた炎を喰らい、空を駆けるように飛び立った。
目指して来るのは、この場所。
背筋も凍るような寒気。これが私の父、本来の姿。
光莉の神域を表す水面に足を付け、舐めつくすような炎が一気に拡がる。
青白い炎を真っ二つに裂く風。その一撃は猫塚先生の鎌、一振り。
「白狐、あなたの喰らった炎を回収するわ。死して尚、その配下に留めるのが誰であろうと、理に反する。私は猫又、墓護り。」
鎌を回しながら、確実に距離を縮めていく猫塚先生。
それに対し、父は怯むことなく炎を吐き出す。力の差に、ただ息を呑んだ。
「くくっ。神落ちなんて言葉だけだよ。理に反する?減退こそ無意味。神仕えは、数が減るけれど能力の減退はない。寧ろ、力を蓄えた宝庫。」
そんな理由で母を配下に?
違うと信じたい。獣の姿とはいえ、手にした炎を見つめる視線は。幸せな時間が嘘だったとは思えない。
「お父さん、もう止めて!」
私と同じ声が響く。鏡に映るのは、鵺に変化した私の姿。お母さんと同じ。
なのに。父は、更に大きな炎を吐いて攻撃した。信じられないような光景に、目の前が暗くなるような感覚。
言葉を失い、自分の代わりに囮となった彼らが心配になる。
鏡に近づくと、それが割れて。私を囲っていた水の壁も崩れ、鏡越しに見ていたはずの白い狐が目の前に。
視線が合い、一気に震えが生じた。
父は私に突進し、腹部に打撃を加える。ふらついた私を背に乗せ、軽やかに空を飛んだ。
見下ろす景色は、地獄絵図のように闇に染まっていた。
猫塚先生の力なのかもしれないけれど。明らかに傷を負った光莉、屈狸くんと姫鏡くんの地面に倒れている姿が目に入る。
「告美!」
叫ぶ声に目を向ける。
少し離れた場所に居た大鷹くんの額から片目に、血が流れていた。
自分の父が何をしたのか。
「酷い。どうして、こんな事。」
変化すれば、この状況から逃げる事が出来るかもしれない。
だけど、力が出なかった。力の差に、恐れを抱いているのは確か。
逃げても、他に行く場所がない。
傷つけてしまった。これ以上、皆に迷惑をかけられない。
父は邪魔をする皆に傷を負わせ、力の差に満足したのか、居場所の特定されている社に帰る。
私を地面に下ろし、小さな炎を口から出した。
「母さんと居なさい。“僕”は、少し休むから。」
表情は読めないけれど、優しい声に感情が揺さぶられる。
憎めない。涙が溢れ、どうすることも出来ずに、情けなさで一杯になる。
「告美。お父さんも、どうしていいのか迷っているのよ。」
幼き日の思い出。もう会えないと思っていた母。
柔らかさを感じるのに、体温のない抱擁。
「お母さん……」
理に反しても、失いたくないと願うのは……間違った事なのかな。
「告美、私が託した夢は見ることができたかしら。」
頭を撫で、私の顔を不安そうな表情で覗き込む母。
それに対して答えるため、顔を上げた。
「鏡のアヤカシの能力で、周りの状況を含めて視ることが出来た。」
私の答えに、失望に近いような落胆の見える顔色。
「あなた獏とは、まだジンマに出逢っていないの?そんな。まさか未来が変わってしまったのだとすれば、私は。」
母の目に、涙が浮かんで零れ落ちた一筋。
「お母さん、出逢っているわ。だけど。悪夢を受け取った事も彼は知っていながら、私に中身を告げようとはしなかった。」
当然なのかもしれない。
獏は悪夢を奪う。私たちみたいに不吉を告げる役目ではないから。
「私が視た不吉。あなたに告げる。『ジンマ』の翼が漆黒に染まるなら、あなたの夢は全て……吉凶を萌す能力をも奪われてしまうだろう。」
縁起の良し悪し全て。
母の告げた不吉は、もう私に臨んでいるのだろう。聞くのも、気付くのも遅かった。
「まるで彼の翼は悪魔のように黒くて、深い闇を連想させた。友達が教えてくれて、気付いたけれど。私は数日、夢を覚えていない。」
お母さんの私を抱き寄せる力が強くなる。少しの震え。
「潔(すぐる)は、どうなるの……。告美、あなたの父は理に反した。最悪の事態を避けるため私は、獏に協力したつもりだったのに。彼女の息子は、あなたを殺すかもしれない。」
私を殺す。獏の息子、一翔が私を。
私の命が奪われる事と、父が理に反した事は関係があるの?
もしそうなら今の状況は、最悪の事態。
そうだとしても。
そっと押して、抱きしめていた母から体を離す。
「お母さん、ごめんなさい。私は……彼が獏でも、ジンマでもいい。一翔が私を殺すのならば、私はその不吉を受け入れる。」
どちらであっても、私の信頼は揺るがない。
心乱されても、不吉を萌す役目を奪われても、彼に会いたいと願う。
「彼が何者でも、理に反しても……この想いは貫く。」
母の表情が更に曇る。
彼を、一翔を好きだと言えば困りますか・・