諸々ファンタジー5作品
オマケ
配下は甘い・・
朝日を浴びて目覚め、目に入るのは広いベッドと見た事のない部屋。
体を起こして布団が肌蹴、自分の裸が露わ。慌てて布団を胸元に当てながら、部屋を見渡した。
一翔の配下になったということは、ここは彼の家。
昨日の夜の事は……
嘘だ。そんな急展開。
「告美、起きたのか?」
ドアが開いて、笑顔の爽やかな一翔。
夢じゃなかった!
「……おはよう、ございます。」
私の曖昧な挨拶に、口もとを緩ませる。そんな表情を可愛いと思うなんて。
「今日は休むか、学校。」
制服姿で、学校の支度を済ませた状態の彼に、私は戸惑いながら視線を逸らす。
裸で身動きも取れず、昨日の事も恥ずかしくて、どうしていいのか分からない。
あの場で、配下にする宣言をしたから皆には知られているわけで。
「何、そんなに無理をさせたかな。何なら、もっと俺の力を喰う?」
何故か制服のボタンを外しながら、色気を増して迫ってくる。
「ヤダ!」
拒絶とは違う、照れ隠しに近いハズだったのに。
「おかしいなぁ。配下に、拒否権はないよ?」
眼が真剣で、伝わるのは凍えるような緊迫。
「違う、から。その。恥ずかしいから、少し部屋から出てよ。服を着たいんだけど。」
視線をさ迷わせ、脱いだ服を探すけど見つからない。
「あぁ、洗ったから無いよ。白狐の神域って消えたけど、服とかどうなったのかな。」
私の恥じる姿を楽しむように、体を隠した布団を捲り、ベッドに上がる。
「何してるの?学校に行くんだよね?あ、生徒会の時間じゃない?遅れるよ?」
今までにないくらい舌が回る。
「ん?くすくすくす……時間の操作は無理だけどね、学校を支配するくらいには力があるんだ。」
それは笑えない冗談ですか?
私に被さり、甘えるように頬をすり寄せる。
「好きだよ、告美。……覚えてないだろ、昨日の夜の事。」
所々、意識が飛んだ気がするけど。何を指して言っているのかな。
「仲間を見つけて、それが自分好みの同類だったなんて。ふふ。そりゃ喰うっきゃないよね。」
予告通り、食べられてしまったわけですか。
「あれ?告美、寝る時にノーブラ派だから抵抗はないだろ。」
あの時は、上着を着ていたはずですよ。
そうよ、あなたは寝ている私の胸に触れても平気だった。
「……寝ていた私に、何もしてないよね?」
「寝る前にしたから、その後はいろいろ我慢したよ。……ん?それは起きている今、して欲しいって事?」
しまった。我慢するとか、そんな言葉も気になるけど。
裸の今、こんな朝日を受けた明るい場所で身を晒すなんて無理!
「冗談だよ、告美。ねぇ、告美……こっち見て。」
視線を向けると、銀色の髪に白い翼を広げた姿の別人。
「俺は神馬(ジンマ)。獏の能力も共に引継いだアヤカシ。鵺、告美を配下に置いた。」
「私は鵺、吉凶の萌しを視て不吉を告げるアヤカシ。今後、神馬の配下に身を置く。」
…………出逢った記憶。彼の想い。それが流れ込んでくるような感覚。
目を閉じ、睡魔に誘われて落ちていく。
一翔は獏として私の悪夢、一翔のお母さんが鵺(はは)に託した悪夢に引き寄せられて来た夜。
私の夢に現れたのが獏、現実で私が殴ったのはジンマ。本来、獏は仮の姿で感覚などない。
夜明けに本体に引き戻されると、言っていたけれど。そこに居たのは神馬(じんま)で、本体だったのね。
減退などしてこなかったし、あなたは強い能力に目覚めたばかりで、痛みを感じた事にも無頓着。
私はあなたに萌しを邪魔され、現実の体にまで触れたから、夢魔の類だと思ったけれど。
あの時から、少しずつ未来は動いていたのかもしれない。
別人のように振る舞う一翔に違和感を抱き、女生徒に囲まれている時のあなたに近づく事を恐れて。
悲しみの表情で夢を返せないと告げられ、読み取れない表情で突き放されて。
苦笑に混じる感情が何かを知りたくて、目が離せなくなった。
彼の抱える闇の心奥深くに触れたようで、何かが埋まる。
惹かれて心乱された。
あなたに覚悟を見せろと言われ、私が夢で口づけたのは、萌しより望んだものがあったから。
それなのに、夢で体温を感じるなんて。
確かに、私が視た悪夢が未来を変えた。
あなたが必死になったから、私の心が素直に反応しただけなのよ。
『あいつには近づくな。頼むから。もう、俺と係わりたくなどないだろう?』
そうね。私が姫鏡くんに近づいて好意を抱くなら、萌しの通り命を落としていただろうから。
そうならないで欲しいと、あなたは願ってくれた。
『もう、後戻りは出来ないからね』
追いかけるのを止めなくて良かった。
『君には感覚があるんだね。残念ながら俺にはないんだ。これは仮の姿だって言っただろ』
嘘つき。羽が黒く染まっても、あなたは臆病。
『バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな』
自分から背にある真っ黒な翼を見せておいて、私に何を伝えたかったのか。
自分の事を知って欲しいのに、近づく私を突き放すような矛盾した言葉と行動。
愛しさが増していく。
『恐れは未来に対して生じるもの。そうだ、先を視るお前が怖い』
私の萌しを知って、あなたは恐れた。
どんなに強い力を持っていたとしても、不安は消えない。
『俺の気持ち(したごころ)を本当に知っているのかな』
『知らないわ。だから、教えて欲しい。嘘じゃない。感覚も言葉もすれ違うけれど、間違ってはいないと思える。幸せと、満たされるような心は一翔が教えてくれたから。信頼は変わらない。私の全てを見透かすような視線に、気恥ずかしさが抜けないとしても』
あなたの配下に留まって、私の全てを捧げるわ。
アヤカシは減退してまで、この人間社会に溶け込むことを願って来た。
役目を担い、夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
減退に相応しいアヤカシを見つけて……減退を選んだ“この国”。残った数少ないアヤカシ。
古来より人間の心が思い描き、恐怖が生み出してきたのに。
現代では、いともたやすく消していく。
不安定な理でアヤカシは生きているのだから。未来だって覆せるなら。
悪を善に塗り替え、理に反しても甘い配下で幸せに・・
(オマケ:猫塚先生&大鷹くん)
「もう、あいつら消えればいいのに。言い加減、あんなアヤカシ共を知っている人間もそろそろ寿命で……そうよね、私が幾ら減退したからって死神の人気はあるわけだし。逆に利用してやろうかしら。」
人間に左右されるような理では駄目だと、最近の猫塚先生は過激派になりつつある。
減退を選んだ古の理に反するのは、簡単じゃないよね。
父と一翔の件でお世話になったし、母は配下に置いてもらっているのに。
「気にしなくてもいいわ。神域にいるだけで存続できるのだから。」
「先生、大鷹くんを配下にしたのは寿命が関係しているんですか?」
先生は遠くを見るような視線で微笑む。
「確かに私が配下に出来るのは、命に関する弱者だけど。寿命に係わらず紋葉に好意を抱いたのだと、そう思ってよ。」
アヤカシの存在意義や理に反しても、猫塚先生と大鷹くんの関係は変わらない。
想いは同じ。純粋なのだと、少し切なくなった・・
(オマケ:光莉&屈狸くん+白狐)
「まぁ、需要と供給じゃ。しゃあないわ。私等は頼られてナンボやけんな。」
かと言って毎回、屈狸くんを噛むのもどうなのかな。
「僕は、光莉さんの気持ちが本当なら良いですよ。」
毒されてきたのかな。彼も前は、なぜ噛むのかと言っていたのに。
「配下に置けるいうんは、気持ちが無いと無理やけん。他は神域に留めるとか……。そう言えば白狐、あんたの栄養は人間と同じなん?稲荷寿司やっけ。」
父は獣姿で伸びをしてから、本棚に駆け上って座る。
「見下ろすとか、立場が違(ちゃ)うやろ。」
不機嫌な光莉に、満足そうな笑みを見せた。
「稲荷寿司が狐の主食とか、冗談だよね。肉食だよ、僕は。くくくっ……ネズミを喰らうからね、狸でも案外。」
光莉の怒りが、こっちにまで伝わるようなピリピリした空気。
お母さんと離れているのが、少し不満なのかもしれない。
「ふん。はがいたらしい。化け猫のところにでも行きなだ。」
了承を得たと思ったのか、父は青白い火の玉になってから消えた。
「告美、白狐が言うんも一理ある。『神仕えは、数が減るけれど能力の減退はない。寧ろ、力を蓄えた宝庫』。それでも配下に置けるんは、限られとる。空馬先輩と、仲良うしぃなぁ。」
『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』
そうだね、私は一翔の配下で生きていく。
出来るならアヤカシの未来を、不吉を覆すため……吉凶は夢に萌す…………
END
朝日を浴びて目覚め、目に入るのは広いベッドと見た事のない部屋。
体を起こして布団が肌蹴、自分の裸が露わ。慌てて布団を胸元に当てながら、部屋を見渡した。
一翔の配下になったということは、ここは彼の家。
昨日の夜の事は……
嘘だ。そんな急展開。
「告美、起きたのか?」
ドアが開いて、笑顔の爽やかな一翔。
夢じゃなかった!
「……おはよう、ございます。」
私の曖昧な挨拶に、口もとを緩ませる。そんな表情を可愛いと思うなんて。
「今日は休むか、学校。」
制服姿で、学校の支度を済ませた状態の彼に、私は戸惑いながら視線を逸らす。
裸で身動きも取れず、昨日の事も恥ずかしくて、どうしていいのか分からない。
あの場で、配下にする宣言をしたから皆には知られているわけで。
「何、そんなに無理をさせたかな。何なら、もっと俺の力を喰う?」
何故か制服のボタンを外しながら、色気を増して迫ってくる。
「ヤダ!」
拒絶とは違う、照れ隠しに近いハズだったのに。
「おかしいなぁ。配下に、拒否権はないよ?」
眼が真剣で、伝わるのは凍えるような緊迫。
「違う、から。その。恥ずかしいから、少し部屋から出てよ。服を着たいんだけど。」
視線をさ迷わせ、脱いだ服を探すけど見つからない。
「あぁ、洗ったから無いよ。白狐の神域って消えたけど、服とかどうなったのかな。」
私の恥じる姿を楽しむように、体を隠した布団を捲り、ベッドに上がる。
「何してるの?学校に行くんだよね?あ、生徒会の時間じゃない?遅れるよ?」
今までにないくらい舌が回る。
「ん?くすくすくす……時間の操作は無理だけどね、学校を支配するくらいには力があるんだ。」
それは笑えない冗談ですか?
私に被さり、甘えるように頬をすり寄せる。
「好きだよ、告美。……覚えてないだろ、昨日の夜の事。」
所々、意識が飛んだ気がするけど。何を指して言っているのかな。
「仲間を見つけて、それが自分好みの同類だったなんて。ふふ。そりゃ喰うっきゃないよね。」
予告通り、食べられてしまったわけですか。
「あれ?告美、寝る時にノーブラ派だから抵抗はないだろ。」
あの時は、上着を着ていたはずですよ。
そうよ、あなたは寝ている私の胸に触れても平気だった。
「……寝ていた私に、何もしてないよね?」
「寝る前にしたから、その後はいろいろ我慢したよ。……ん?それは起きている今、して欲しいって事?」
しまった。我慢するとか、そんな言葉も気になるけど。
裸の今、こんな朝日を受けた明るい場所で身を晒すなんて無理!
「冗談だよ、告美。ねぇ、告美……こっち見て。」
視線を向けると、銀色の髪に白い翼を広げた姿の別人。
「俺は神馬(ジンマ)。獏の能力も共に引継いだアヤカシ。鵺、告美を配下に置いた。」
「私は鵺、吉凶の萌しを視て不吉を告げるアヤカシ。今後、神馬の配下に身を置く。」
…………出逢った記憶。彼の想い。それが流れ込んでくるような感覚。
目を閉じ、睡魔に誘われて落ちていく。
一翔は獏として私の悪夢、一翔のお母さんが鵺(はは)に託した悪夢に引き寄せられて来た夜。
私の夢に現れたのが獏、現実で私が殴ったのはジンマ。本来、獏は仮の姿で感覚などない。
夜明けに本体に引き戻されると、言っていたけれど。そこに居たのは神馬(じんま)で、本体だったのね。
減退などしてこなかったし、あなたは強い能力に目覚めたばかりで、痛みを感じた事にも無頓着。
私はあなたに萌しを邪魔され、現実の体にまで触れたから、夢魔の類だと思ったけれど。
あの時から、少しずつ未来は動いていたのかもしれない。
別人のように振る舞う一翔に違和感を抱き、女生徒に囲まれている時のあなたに近づく事を恐れて。
悲しみの表情で夢を返せないと告げられ、読み取れない表情で突き放されて。
苦笑に混じる感情が何かを知りたくて、目が離せなくなった。
彼の抱える闇の心奥深くに触れたようで、何かが埋まる。
惹かれて心乱された。
あなたに覚悟を見せろと言われ、私が夢で口づけたのは、萌しより望んだものがあったから。
それなのに、夢で体温を感じるなんて。
確かに、私が視た悪夢が未来を変えた。
あなたが必死になったから、私の心が素直に反応しただけなのよ。
『あいつには近づくな。頼むから。もう、俺と係わりたくなどないだろう?』
そうね。私が姫鏡くんに近づいて好意を抱くなら、萌しの通り命を落としていただろうから。
そうならないで欲しいと、あなたは願ってくれた。
『もう、後戻りは出来ないからね』
追いかけるのを止めなくて良かった。
『君には感覚があるんだね。残念ながら俺にはないんだ。これは仮の姿だって言っただろ』
嘘つき。羽が黒く染まっても、あなたは臆病。
『バレちゃったか。それならしょうがない。計算が狂ったから少しの間、身を引こうかな』
自分から背にある真っ黒な翼を見せておいて、私に何を伝えたかったのか。
自分の事を知って欲しいのに、近づく私を突き放すような矛盾した言葉と行動。
愛しさが増していく。
『恐れは未来に対して生じるもの。そうだ、先を視るお前が怖い』
私の萌しを知って、あなたは恐れた。
どんなに強い力を持っていたとしても、不安は消えない。
『俺の気持ち(したごころ)を本当に知っているのかな』
『知らないわ。だから、教えて欲しい。嘘じゃない。感覚も言葉もすれ違うけれど、間違ってはいないと思える。幸せと、満たされるような心は一翔が教えてくれたから。信頼は変わらない。私の全てを見透かすような視線に、気恥ずかしさが抜けないとしても』
あなたの配下に留まって、私の全てを捧げるわ。
アヤカシは減退してまで、この人間社会に溶け込むことを願って来た。
役目を担い、夜な夜な活動を粛然と繰り返す。
減退に相応しいアヤカシを見つけて……減退を選んだ“この国”。残った数少ないアヤカシ。
古来より人間の心が思い描き、恐怖が生み出してきたのに。
現代では、いともたやすく消していく。
不安定な理でアヤカシは生きているのだから。未来だって覆せるなら。
悪を善に塗り替え、理に反しても甘い配下で幸せに・・
(オマケ:猫塚先生&大鷹くん)
「もう、あいつら消えればいいのに。言い加減、あんなアヤカシ共を知っている人間もそろそろ寿命で……そうよね、私が幾ら減退したからって死神の人気はあるわけだし。逆に利用してやろうかしら。」
人間に左右されるような理では駄目だと、最近の猫塚先生は過激派になりつつある。
減退を選んだ古の理に反するのは、簡単じゃないよね。
父と一翔の件でお世話になったし、母は配下に置いてもらっているのに。
「気にしなくてもいいわ。神域にいるだけで存続できるのだから。」
「先生、大鷹くんを配下にしたのは寿命が関係しているんですか?」
先生は遠くを見るような視線で微笑む。
「確かに私が配下に出来るのは、命に関する弱者だけど。寿命に係わらず紋葉に好意を抱いたのだと、そう思ってよ。」
アヤカシの存在意義や理に反しても、猫塚先生と大鷹くんの関係は変わらない。
想いは同じ。純粋なのだと、少し切なくなった・・
(オマケ:光莉&屈狸くん+白狐)
「まぁ、需要と供給じゃ。しゃあないわ。私等は頼られてナンボやけんな。」
かと言って毎回、屈狸くんを噛むのもどうなのかな。
「僕は、光莉さんの気持ちが本当なら良いですよ。」
毒されてきたのかな。彼も前は、なぜ噛むのかと言っていたのに。
「配下に置けるいうんは、気持ちが無いと無理やけん。他は神域に留めるとか……。そう言えば白狐、あんたの栄養は人間と同じなん?稲荷寿司やっけ。」
父は獣姿で伸びをしてから、本棚に駆け上って座る。
「見下ろすとか、立場が違(ちゃ)うやろ。」
不機嫌な光莉に、満足そうな笑みを見せた。
「稲荷寿司が狐の主食とか、冗談だよね。肉食だよ、僕は。くくくっ……ネズミを喰らうからね、狸でも案外。」
光莉の怒りが、こっちにまで伝わるようなピリピリした空気。
お母さんと離れているのが、少し不満なのかもしれない。
「ふん。はがいたらしい。化け猫のところにでも行きなだ。」
了承を得たと思ったのか、父は青白い火の玉になってから消えた。
「告美、白狐が言うんも一理ある。『神仕えは、数が減るけれど能力の減退はない。寧ろ、力を蓄えた宝庫』。それでも配下に置けるんは、限られとる。空馬先輩と、仲良うしぃなぁ。」
『“彼”も告美を配下に置けんのだけは覚えておいて欲しいんよ』
そうだね、私は一翔の配下で生きていく。
出来るならアヤカシの未来を、不吉を覆すため……吉凶は夢に萌す…………
END