諸々ファンタジー5作品
『ヒロイン』
教室の中は、穏やかに時間が過ぎる。
授業に耳を傾け、黒板の文字をノートに綴っていく。
去年は違うクラスの晴が、今は同じで、授業も一緒。学校以外を共にした時間が、逆転……
晴を好きだと思ったのは、いつだろうか。周りが色めき、想いに恋にデートに、話題を展開させた。一番、身近に居て、共に居る時間を望んだ異性。
晴のヒロインは、私ではなかった。選んだのは木口さん。
少し茶色い柔らかな短い髪が、よく似合う可愛い顔。背は低くて、晴の隣に相応しい女の子らしさの表れた振る舞い。言葉は歯切れよく、自分の意見を的確に伝える。
自分と異なる女の子に嫉妬も出来ず、自分の情けなさと消えたい気持ち。届かない無駄な足掻きも出来ず。
アバターは、彼女に近い姿。なのに、囚われたのは私だと思えるなんて……ヒロインは私じゃない。
彼女は、闇を選ばない。磔は、光の中。彼女に相応しい場所。助けなくても……行動を起こさない私に、嫌気がさして……
違う。
アバターが私に似つかわしくないのを知っている。登録には、私の個人情報。ヌイグルミの返却は私。
助けないといけない。あのまま、逃げたのではいけない。
逃げては、手に入らない。サイトの関係者は、目的があって、私のアバターを捕らえた。
“ヒロイン”の意味するところは、私には分からない。
グルグルと同じ思考と結論に、自分を奮い立たせて、決意を強める。
先の読めないサイト。ログイン時だけは、囚われてあげる。
学校での一日を終え、帰り支度。
晴に近づく木口さん。大きな目で見つめる晴への視線は、愛しさの伴うもの。頬を染め、甘えるような声。
晴の視線も……あれ?違和感。
私の視線に、晴が気づいたのか目が合った。思わず逸らして、荷物を持ち、教室を走って飛び出す。
ドキドキと、心音が早くて大きくなる。
どうして?
晴が気づく程、私は木口さんを見つめていたのだろうか。恥ずかしい。きっと、周りにも気づかれたかもしれない。
未練?まだ、自分の中で消化できない、燻った感情があるのだろう。知られたくない。
違和感は、きっと……晴の木口さんに向けた目が、幼馴染の私とは違う視線だったから。
私の想いは、恋だったのだろうか……
以前に感じた晴の静けさが、冷たく感じるなんて。ありえない事だ。
失恋は、完全にとは言えないけど痛みなどない。
あのサイトが、私を癒してくれた。それなのに、今は、そのサイトが私を混乱に突き落す。
アバターを解放して欲しい。
『ヒロイン』
ゲームなのか、物語なのかも分からない。要求を受け入れれば、満足なのかな?
家に帰り、再出発を望んだ私は、リハビリの日常を繰り返す。
燻った感情も治まって、新たな出発を始めることも可能だと信じている。
晴は、私とは違う道を木口さんと歩む。私は前を進む彼とは違う道で、自分なりの前進を願う。
夜9時過ぎにテレビの前から離れ、自分の部屋へ向かう。
部屋の電気を付け、PCの電源を入れた。PCは、遠隔操作でも受けているのか、勝手にあのサイトへログイン。
アバターは磔のまま。光の中、目を閉じた状態で動かない。
適当なキーを何度か押してみる。アバターは目を開け、高音のバイオリンが曲を奏でた。
アバターを束縛していた黒い紐のようなものが崩れ、様々な音符記号が現れた。それが曲に合わせて流れていく。
音のある光の中、解放されたアバターは自分の足で画面の中央に立った。両手を伸ばし、視線を上部に向ける。
落下音が曲に重なり、物影を受け止めるアバター。手には、あのヌイグルミ。
晴のくれた雪だるまの姿と同じ物。
背筋に寒気がした。
カバンに入れたままだったヌイグルミを、PCの横、机の上に置く。何の意味が……?
画面に視線を戻すと、雪だるまから闇が生じる。滲むように光を侵食して、アバターを呑み込んだ。
バイオリンが、今までにない速度で曲を演奏し、高音と低音を繰り返す。まるで、変化を強調するような激動。
アバターの涙が、闇に光を刻んで螺旋状の渦になる。黒い様々な音符記号が、散らばった光を運んでアバターを包んだ。
光を帯びた音符記号が、髪に触れると、木口さんと同じ茶色から漆黒に変化する。
短い髪に音符記号が絡んで、柔らかさを失い、艶やかな長い黒髪。
アバターは目を閉じ、緩やかな回転を繰り返す。
低くて可愛い容姿は、女の子にしては高い背と切れ長の目に。
まるで自分が、そのままアバターになったような姿。
手にはタンバリン。
『俺の、ヒロインになってくれないか?』
今回は、音声ではなく画面に現れた文字。前回と同様、返事を求めて点滅するカーソル。
私は文字の入力もせずに、エンターキーを押した。
「未來、彼のメッセージを預かっている。君に会えた時、必ず渡すと誓うから……一時的で良い。俺のヒロインになって。」
同年代の男の子の声音。
高音のバイオリンが、聞いたことのある曲を演奏する。
愛の歌……
あなたは晴のメッセージを持っている事を私に告げ、必ず対面すると約束した。
私は、晴が渡そうとした物を手に入れたいから囚われる。
そんな拘束を、まるで私に請い願うような矛盾した要求。あなたが求めたのは、一時的なヒロイン。
悲しみの伝わる声だった。
教室の中は、穏やかに時間が過ぎる。
授業に耳を傾け、黒板の文字をノートに綴っていく。
去年は違うクラスの晴が、今は同じで、授業も一緒。学校以外を共にした時間が、逆転……
晴を好きだと思ったのは、いつだろうか。周りが色めき、想いに恋にデートに、話題を展開させた。一番、身近に居て、共に居る時間を望んだ異性。
晴のヒロインは、私ではなかった。選んだのは木口さん。
少し茶色い柔らかな短い髪が、よく似合う可愛い顔。背は低くて、晴の隣に相応しい女の子らしさの表れた振る舞い。言葉は歯切れよく、自分の意見を的確に伝える。
自分と異なる女の子に嫉妬も出来ず、自分の情けなさと消えたい気持ち。届かない無駄な足掻きも出来ず。
アバターは、彼女に近い姿。なのに、囚われたのは私だと思えるなんて……ヒロインは私じゃない。
彼女は、闇を選ばない。磔は、光の中。彼女に相応しい場所。助けなくても……行動を起こさない私に、嫌気がさして……
違う。
アバターが私に似つかわしくないのを知っている。登録には、私の個人情報。ヌイグルミの返却は私。
助けないといけない。あのまま、逃げたのではいけない。
逃げては、手に入らない。サイトの関係者は、目的があって、私のアバターを捕らえた。
“ヒロイン”の意味するところは、私には分からない。
グルグルと同じ思考と結論に、自分を奮い立たせて、決意を強める。
先の読めないサイト。ログイン時だけは、囚われてあげる。
学校での一日を終え、帰り支度。
晴に近づく木口さん。大きな目で見つめる晴への視線は、愛しさの伴うもの。頬を染め、甘えるような声。
晴の視線も……あれ?違和感。
私の視線に、晴が気づいたのか目が合った。思わず逸らして、荷物を持ち、教室を走って飛び出す。
ドキドキと、心音が早くて大きくなる。
どうして?
晴が気づく程、私は木口さんを見つめていたのだろうか。恥ずかしい。きっと、周りにも気づかれたかもしれない。
未練?まだ、自分の中で消化できない、燻った感情があるのだろう。知られたくない。
違和感は、きっと……晴の木口さんに向けた目が、幼馴染の私とは違う視線だったから。
私の想いは、恋だったのだろうか……
以前に感じた晴の静けさが、冷たく感じるなんて。ありえない事だ。
失恋は、完全にとは言えないけど痛みなどない。
あのサイトが、私を癒してくれた。それなのに、今は、そのサイトが私を混乱に突き落す。
アバターを解放して欲しい。
『ヒロイン』
ゲームなのか、物語なのかも分からない。要求を受け入れれば、満足なのかな?
家に帰り、再出発を望んだ私は、リハビリの日常を繰り返す。
燻った感情も治まって、新たな出発を始めることも可能だと信じている。
晴は、私とは違う道を木口さんと歩む。私は前を進む彼とは違う道で、自分なりの前進を願う。
夜9時過ぎにテレビの前から離れ、自分の部屋へ向かう。
部屋の電気を付け、PCの電源を入れた。PCは、遠隔操作でも受けているのか、勝手にあのサイトへログイン。
アバターは磔のまま。光の中、目を閉じた状態で動かない。
適当なキーを何度か押してみる。アバターは目を開け、高音のバイオリンが曲を奏でた。
アバターを束縛していた黒い紐のようなものが崩れ、様々な音符記号が現れた。それが曲に合わせて流れていく。
音のある光の中、解放されたアバターは自分の足で画面の中央に立った。両手を伸ばし、視線を上部に向ける。
落下音が曲に重なり、物影を受け止めるアバター。手には、あのヌイグルミ。
晴のくれた雪だるまの姿と同じ物。
背筋に寒気がした。
カバンに入れたままだったヌイグルミを、PCの横、机の上に置く。何の意味が……?
画面に視線を戻すと、雪だるまから闇が生じる。滲むように光を侵食して、アバターを呑み込んだ。
バイオリンが、今までにない速度で曲を演奏し、高音と低音を繰り返す。まるで、変化を強調するような激動。
アバターの涙が、闇に光を刻んで螺旋状の渦になる。黒い様々な音符記号が、散らばった光を運んでアバターを包んだ。
光を帯びた音符記号が、髪に触れると、木口さんと同じ茶色から漆黒に変化する。
短い髪に音符記号が絡んで、柔らかさを失い、艶やかな長い黒髪。
アバターは目を閉じ、緩やかな回転を繰り返す。
低くて可愛い容姿は、女の子にしては高い背と切れ長の目に。
まるで自分が、そのままアバターになったような姿。
手にはタンバリン。
『俺の、ヒロインになってくれないか?』
今回は、音声ではなく画面に現れた文字。前回と同様、返事を求めて点滅するカーソル。
私は文字の入力もせずに、エンターキーを押した。
「未來、彼のメッセージを預かっている。君に会えた時、必ず渡すと誓うから……一時的で良い。俺のヒロインになって。」
同年代の男の子の声音。
高音のバイオリンが、聞いたことのある曲を演奏する。
愛の歌……
あなたは晴のメッセージを持っている事を私に告げ、必ず対面すると約束した。
私は、晴が渡そうとした物を手に入れたいから囚われる。
そんな拘束を、まるで私に請い願うような矛盾した要求。あなたが求めたのは、一時的なヒロイン。
悲しみの伝わる声だった。