諸々ファンタジー5作品
『招かれざる勇者』




戦闘終了。

タクマは白青の炎を振るう様に剣を回し、鞘に差し込んだ。

画面が街中に戻り、戦闘前と同様の書き込みで大勢のプレイヤーが接近。



その動画がスローになり、PC異常なのかと、不測の事態に焦りが生じた。

見つめる画像の左端に違和感があり、上から下に直線が一つ右へ平衡移動する。

画像が波打つように歪んだ。

線の通り過ぎた画像は、漆黒の闇色に変わって無音。町もプレイヤーも、書き込みも塗り替えられていく。

線はタクマにかかり、姿は残るが静止したような画。

その線は私にも襲う。しかし、すり抜けた後の私に変化は無かった。

光が包んで、宙に浮いた状態の傍観者。空間が違うのか、それともタクマに守られているのだろうか。



画面に残ったのは闇に静止したタクマと、光に包まれて浮かぶ私。

無音。



タクマの足元から、じわじわと崩れていく画。

形を成していた部分が、0と1の数字に変化して散り尻になる。それはまるで、人が砂や灰になって風にとばされるようで、恐怖が包む。

私の手は無意識に、キーボタンを連打していた。タクマを助けたくて。



ガラスにヒビが入るような軋む音。

耳に入る音に、私の手は止まり、変化する画像に目は釘づけ。



私(アバター)を包んでいた光が、音と共に弾け散る。

ガラスの破片が、思わぬほど遠くまで跳ねるように、光は画面全体に煌めいた。

散った光の破片が0と1に触れると音符記号に変わり、バイオリンの高音が曲を奏で、響く。



心騒ぐ期待。備えられた出番は憧れる様な設定で、整えられた展開だった。

私は『ヒロイン』。タクマの危機を救う為に、必要な存在。

変身をしていない私の手に音符が集まって、触れた途端に、タンバリンが出現した。

残りの音符記号は、画の霞んだタクマを再形成していく。

装備の剥がれていたタクマを包む紺碧の鎧の欠如。私のタンバリンを構成する元になった情報は、タクマの頭を守っていた兜。

装備の一部は、タンバリンの胴の部分を木枠色から紺碧に換えた。



装備を与えられた私は、静止や消滅から回復したタクマに近づく。

「俺のヒロイン、勝利の女神よ。ありがとう、これからも共に。」

私はタクマの差し伸べる手を、躊躇なく受け入れた。

闇の中、二人は抱擁を交わす。まるで、ヒーローとヒロインの感動的な再会のシーン。



それなのに、どこか傍観してしまう。

確かに、PCの画面を見ているだけの私。訳も分からず、押すキーは意味を成さないだろう。

きっと消えかかったタクマが、どれほどの危機だったのか曖昧だからかもしれない。

データの修復が可か不可か。



チャットの時と同じように勝手な干渉なら……難攻不落の城を設定したゲームを、攻略してしまう勇者は歓迎されないだろう。



それでも望む。

私は、彼のヒロインである以上に、この世界を楽しみたい。

ハッピーエンドな展開を準備された存在、魅力的な音のある世界。

囚われる。虜になって、抜け出せない感覚が心に浸透する。



ヒロインはヒーローの起死回生に成功し、歓喜の涙が頬を伝う。零れて輝く涙は、足元の闇に落ちた。

水滴が闇に入って、跳ねかえり、闇を包んだ小さな王冠が生じる。

そこから揺れる闇が光を伴い、波紋が画面に浸透していく。幾重にも輪のように広がる光を含んだ波の形の模様。

闇が生じた時とは逆転の信号を送るようだ。



私(アバター)は手を掲げ、手首を振って曲に合わせてタンバリンを奏でる。

紺碧のタンバリンは、艶が光を増幅し、シンバルの高音が更に加わったような強い響き。

眩い光が画面を覆う。

私は目を閉じ、感情が高揚するのを味わう。甘い、酔い痴れる様な気分。癖になるような、急かすようで味わいたいような複雑な昂り



……それは、麻痺を引き起こす…………




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